「ならば私が働くしかない」——ドムドムハンバーガーをV字回復へ導いた藤﨑忍の原点

日本初のハンバーガーチェーン・ドムドムハンバーガー。倒産の危機に直面した老舗チェーンをV字回復させた現社長・藤﨑忍さんは、39歳までどこにでもいる普通の主婦でした。なぜ藤﨑さんは、会社を成長させる経営者へと生まれ変わったのでしょうか。〝実行〟によって人生を切り拓いてきた氏の原点に迫ります。

「ならば、私が働くしかない」

——経営者として、会社を成長させてきた藤﨑社長ですが、その原点はどこにあるのでしょうか。

〈藤﨑〉
祖父の代から地方政治家をしている家に生まれ、ご近所の方が次々と出入りするような、東京・下町の賑やかな家庭で育ちました。

そんな私の小さい頃からの夢はお嫁さんになること(笑)。その夢が叶って21歳の時、国会議員秘書をしていた主人と結婚しました。

2年後には息子も生まれ、専業主婦として、墨田区議会議員となった夫の活動を支える日々が18年ほど続きました。

そして39歳の夏、当選が確実視されていた都議選で主人が落選するというまさかの出来事が起こったのです。と同時に主人は体調を崩し、突然我が家の収入はゼロになってしまいました。

「ならば私が働くしかない」

それが、すべての始まりでした。

——専業主婦から突然働くことになり、不安はなかったのですか。

〈藤﨑〉
全くありませんでした。不安より必死でしたから。

私、自分の人生を振り返ると、選んできたというよりは、いつも必要に迫られ、導かれて歩んできたような気がするんです。だからこの時もすぐに受け入れて、仕方がないから私が働こう、と。

仕事を探していると、友人が「母親が渋谷109でセレクトショップをやっているから手伝ってみれば?」と声をかけてくれました。

「ぜひ!」と即答し翌月から勤務することになったのです。

——渋谷109と言えば、若い女性向けのアパレルブランドが出店しているファッションビルですね。

〈藤﨑〉
躊躇は全くなかったです。

お嬢さん方の雰囲気が、私たちの時代と全く違うことに多少驚いたものの、わくわくした気持ちで初日を迎えました。10坪ほどの小さな店でしたが、オーナーからは「いずれは後継者になってほしい」と言われ入社したので、最初からこのお店を運営していくという気持ちで働き始めたのです。

といっても働くのは初めてですから、初日からノートを1冊用意し、そこに気づいたことを何でもメモするようにしました。

——どんなメモをされたのですか。

8月2日、入社2日目のページには改善点として、こんなことを書いています。

「店舗の整理。清掃ルール。在庫の整理。商品センターとの連携。棚等の有効活用」。

この5つが、最初に洗い出したことでした。

段ボール箱が床に直置きされていたら見栄えが悪いのでそれを隠す布を買おうとか、試着室のカーテンが汚いから自分で裁縫しようとか、そんな小さなことから着手しました。

それから、1時間にどのくらい売り上げがあるのか、何時頃が一番売れるのか知りたくて、初日から手書きで売り上げをすべて記録していました。

レジのボタンを押せば、精算レシートがびゅっと出て一瞬で分かるんですけどね(笑)。

当時はそんなことも知らず、レジもエクセルも使えませんでしたから、アナログなやり方で一つひとつ計算し、売り上げや客数、客単価、スタッフ数、前年比などを記録し、シフトを組んだり、お店を運営していました。

そうして服の見せ方や、手書きPOPポップの作成、スタッフの教育など改善・改良していくうちに、少しずつ売り上げが上がるようになったのです。

それまでは政治家の妻として、自分の努力と結果が結びつきづらい世界で生きてきましたから、一所懸命に働くことが売り上げという形になるのが、面白くて仕方なかったのです。

——無我夢中で働かれたのですね。

艱難辛苦の末に辿り着いた決意

〈藤﨑〉
ええ。気づけば5年で年商は2倍になっていました。

最初から倍にしようと思っていたわけではありません。少しでもお店をよくしたいと必死に考え、試行錯誤しているうちに、そのような結果になっていたんです。その5年間は仕事を休んだことがありません。

そんな中、体調が徐々に回復し、もう一度選挙に出ようと意気込んでいた主人が脳梗塞で倒れました。

——それは大変でしたね。

あの時は、左半身が不随になってしまった主人があまりにもかわいそうで本当に辛かったです。

何よりこれからどうやって支えて生きていこうか、すごく悩みました。

そこで私は「優しい人になろう」と決意したんです。

普通の夫婦のような気持ちでいたら絶対介護なんてできない。だから優しくなって何でも受け止めようと。

そして介護と仕事を両立する日々が始まりました。大変でしたが一番きつい時期に仕事があるのはありがたかったです。向き合うものが2つあることが私を助けてくれました。


(本記事は月刊『致知』2022年9月号 特集「実行するは我にあり」から一部抜粋・編集したものです)

その後、居酒屋の店主に転じた藤﨑さんは、経営の傾いたドムドムハンバーガーの社長となり、見事に業績を立て直していかれます。
本記事では

・コロナ禍で念願の2期連続黒字を達成
・〝夢中になれる〟性格で道をひらいてきた
・経営者になって行った2つのこと
・実行するのは一人 でも一人では物事は為せない

など、実行によって人生を切り拓く要諦を語っていただきました。藤﨑さんの人生には、困難に屈することなく、運命を掴むヒントが詰まっています。ぜひご覧ください。【「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◇藤﨑忍(ふじさき・しのぶ)
昭和41年東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒業後、政治家の妻となり39歳まで専業主婦として夫を支える。平成17年よりファッションビル渋谷109のセレクトショップ店長、23年に居酒屋の開業を経て、29年11月よりドムドムフードサービス入社。30年8月より現職。著書に『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)など。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。


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