「勝負にこだわるな。芸を磨け」 伝説の棋士・藤沢秀行が伝え続けた、たった一つのこと

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本書の中から、昭和を代表する棋士の一人である藤沢秀行さんのお話をご紹介します。

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第一義はいい碁を打つこと

碁の技術を磨くだけでは強くはなれない。いかに厚みのある生き方をしてきたかが問題になる。経営も同じでしょう。経営が悪化した。だが、その様相は盤上の布石のように無限でも、そこでどのような手を打ち、克服できるかの根本は、一つしかないと思うのですね。リーダーがどれだけ厚みのある生き方をしてきたかです。

私の場合、これまでの73年間を振り返ってあれこれ言うと、所詮は言い訳になってしまいそうです。確かに10代は文字通り刻苦勉励しました。しかし、20代では酒と競輪を覚え、修羅場ばを味わうことになりました。そして、30代で名人のタイトルを取り、50代で棋聖位、60代で王座を手中にしました。その間にがんとの闘病も経験しました。それが私の厚みになっているかどうかは分かりません。ただ、その修羅場で一所懸命にあがき、自分という人間の強さ弱さを学びました。

そしていま、自分の来し方を振り返ってみると、すべては夢幻のようです。残っているのは、碁も人生も分からないという事実です。でも、人生は分からないから面白いのですね。だからいまも、私は若い人と一緒に勉強しているのです。

碁は確かに勝負を競うものです。だが、勝負を第一義に置いたら、逆につまらなくなってしまうのではないでしょうか。碁にはその人の個性、考え方、人生経験が表れますが、碁は感性の発露 、まさに芸に他なりません。だからこそ、碁は命を込めるに値するのですね。勝負は結果にしかすぎません。

第一義はいい碁を打つこと。つまり自分が生きてきたすべてを361路の盤上に表現するものだと私は思っています。そのためには、芸を磨く以外にはありません。芸を懸命に磨く。そうすれば、自然に勝てるようになる。

若い人たちを指導するにも、結局私はこの一事だけしか言っていないのです。

目先の勝負にこだわるな。まず芸を磨け。若いうちはわき目もふらずに精進しろ。それだけです。

その点は中国の碁打ちは目の色が違います。日本の若手もちゃんと勉強していると言いますが、私に言わせれば錯覚もいいところで、年月をかけても、ちゃらんぽらんな勉強をしていれば、いつまでたっても強くなれない。50年かけても弱いやつは弱い。

勝負は芸のもたらす結果だと考えると、勝ち負けに一喜一憂する必要はなくなる。負けるのは自分の芸が未熟だからであり、相手の芸が勝っていたという以外にはない。強い弱いというのはそのことで、芸が相手より勝っているか劣っているかです。では、勝ちたかったらどうするか。目先の勝ち負けを離れ、相手に勝る努力をして芸を磨く以外にはない、ということです。


(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)
◇藤沢秀行(ふじさわ・ひでゆき)
大正14年(1925年)6月14日生 神奈川県横浜市出身。本名「保」。昭和9年院生。昭和15年入段、17年二段、18年三段、21年四段、23年五段、25年六段、27年七段、34年八段、38年九段。平成10年引退。藤澤一就八段は実子。門下に高尾紳路九段、 森田道博九段、 三村智保九段、 倉橋正行九段藤沢里菜四段日本棋院東京本院所属。

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