脳は『論語』が好きだった?!——脳の覚醒下手術の権威・篠浦伸禎が明らかにした古典の効能

脳の覚醒下手術で日本屈指の実績を持つ、脳外科医師の篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)さん。脳のスペシャリストとして、様々な研究をされてきましたが、中国古典『論語』の教えは、科学的にも脳の働きを大きく活性化するそうです。多くの人が学校で慣れ親しんだ『論語』が持つ、知られざる効能とは――?

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脳の機能を「向上」させるやり方って?

脳の機能を改善させてくれるものについて触れていきたいと思いますが、昔から体によいとされているものに、カフェインがあります。特に最近はカフェインがパーキンソン病や糖尿病にも効くともてはやされています。その他、ハーブティーやアホエンなども注目されています。実際、服用することで脳の血流が上がることから、脳が活性化することが分かります。

脳の機能を改善させてくれるものとして、もう1つ、きょうのテーマである「人間学」が挙げられます。

なぜでしょうか? その根拠は、人間学の本を患者さんにお渡しすることにより、精神疾患を抱えていた患者さんに改善の傾向が見られたことにあります。人間学を学ぶことで、脳を使って幸せに生きるヒントが見つかるのではないか――。そう考えたのです。

もう1つは、1000年、2000年という長い年月にわたって風雪に耐え、人間学を伝える種々の書物が生き残ってきたという事実です。その教えは、突き詰めれば、人間の心の持ちようを変えさせようとするものです。これは個人が抱えている脳の問題への根本的な解決につながる可能性を秘めているのです。

昔の人は、「四書五経」などを諳んじている人が数多くいました。しかし、いまはそういう人が少なくなりました。これを読めば、こんないいことがあるといった、何らかの裏づけがなければ、それについて興味を示さない人が多いからでしょう。確かにそれも分からなくはありません。そこで、私は脳科学の観点から、現代人にも分かりやすく人間学を整理しようと試みています。

その際、私は脳の使い方を1次元から3次元まで分けて考えることが有効だと考えています。

これを人の生き方に当てはめてみると、1次元とは、個人の日常生活の基本となる脳の使い方で、作業、習慣とも言い換えられる部分です。

2次元は家庭、学校等、比較的狭い集団における脳の使い方で、相手とウエットな関係を築く上で大切なものです。

さらに3次元とは企業などの大きな組織、いわば集団の中での脳の使い方で、自分を中心として、人、物事に優先順位をつけ必要な部分に対処するためのものです。

知られざる『論語』の効用

では、以上のことを踏まえて、具体的に『論語』を例に見ていきましょう。

「君子は泰にして驕らず 小人窮すれば斯に濫す」

これはまさしく医学にも通ずる話で、ゆったりと冷静に対処し、集中できる人間のほうがよい手術ができます。逆にパニック状態になって頭が真っ白になると、脳の機能を低下させることにつながるのです。

『論語』には、このように理想的な脳の使い方がしっかりと書かれているのです。

スイスの哲学者アミエルが記した『アミエルの日記』の中に、

「人生の行為において習慣は主義以上の価値を持っている。何となれば習慣は生きた主義であり、肉体となり本能となった主義である」

と記されています。1次元的な脳の理想的な使い方とは、いい習慣をつくるということにつながるのです。

「己の欲せざる所人に施す勿れ」

2次元的な脳の使い方で最も重要なポイントは、『論語』でも重要視されている「仁」です。仁とは、自分がしてもらいたくないことは決して人にしてはならないことを説いており、比較的狭い集団において、必要となってくる脳の使い方です。

同じく2次元の脳の使い方を説いたものとして、

「三人行へば必ず我が師あり」

があります。人が3人以上で行動した場合、その中に自分の師となる者を必ず見つけられるという意味です。たとえ小さな集団に属していようとも、常に学ぶ姿勢を保つことの大切さが説かれています。

「君子は言に訥にして、行に敏ならんことを欲す
人にして信なくば、其の可なるを知らず」

それぞれ、さわやかな弁舌より敏速な行動力が大事であること、人間が「信用」を失うと誰からも相手にされなくなることが説かれています。3次元的な脳の使い方が象徴されています。

そしてこれらの脳の使い方を極めた時、それまでとまったく違う世界が見えてきます。それが『論語』でいう君子に当たります。君子とは絶対にこうしなければならない、といったようなこだわりが一切ありません。極めて客観的に、誰が見ても正しいところに価値判断の基準が置かれているのです。

君子そのものの姿勢を示した言葉の1つに次のものがあります。

「倦むこと無かれ」

これは一言で言えば、やり続けることが大事だということです。人間は自分が正しく評価されていないということを往々にして感じるものです。しかし、一方で実力以上の評価を若いうちに受けることで、その後の人生で多くのトラブルに見舞われてしまうこともあります。

ですから、大事なことは、実力以下の評価を甘んじて受け入れながらも、脳機能をフルに働かせて頑張り続けることです。

私は、『論語』には、時間に耐える脳の使い方、しかもできるだけ多くの部位を使えと説かれている、と考えます。しかし、これは短期的に見れば「しんどい」わけですが、長期的に見れば周囲と調和し自分が進歩するという好循環が生じ、脳全体を隈なく使えるようになることにつながります。

『論語』というのは、本当に極めて大事なこと、本質的なことを述べています。ぜひ、『論語』に代表される人間学を学ぶことで、一人ひとりに与えられた脳を最大限に生かしてほしいと思います。


(本記事は『致知』2010年2月号 特集「学ぶに如かず」より一部を抜粋・編集したものです

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◇篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)
昭和33年愛媛県生まれ。東京大学医学部卒業。富士脳障害研究所、東京大学医学部附属病院、国立国際医療センターなどで脳外科手術を行う。平成4年東京大学医学部の医学博士を取得。シンシナティ大学分子生物学部留学。帰国後、国立国際医療センターなどで脳神経外科医として勤務。22年都立駒込病院脳神経外科部長。脳の覚醒下手術ではトップクラスの実績を誇る。

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