彼女の思いががん細胞に届いた日

がん患者さんとの心の通った治療を
心掛けてこられたという育成会横浜病院院長の長堀さん
これまで患者さんとの間で数々のドラマがあったそうです。
そこで本日は長堀さんにとって思い出深い
患者さんとのエピソードの一つをご紹介します

長堀 優(育生会横浜病院)×村上 和雄(筑波大学名誉教授)
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※『致知』2016年2月号
※ 連載「生命のメッセージ」P108

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【長堀】
これは私が10年くらい前に出会った患者さんの話ですが、
その方はお腹の中にがんが広がっていました。

そのことは彼女も知っていたのですが、いつもニコニコされていたんです。

彼女は75歳くらいでしたが、私が回診で病室へ行くと、
私の足音で近づいてくるのが分かるようで、
いつもベッドの上で正坐して待っているんです。

たぶんどの先生にもそうだったと思うのですが、
「いつもありがとうございます」と、正坐したまま最敬礼をしてくれるんです。



その顔は本当にニコニコで満面の笑みでした。
私はどこからこの笑顔が出てくるんだろうか、
死が怖くないのだろうかと、いつも不思議だったんです。

ある日のこと、いつものように素敵な笑顔を見せてくれた彼女が
真剣な顔つきで尋ねてきました。
「先生、私は手術することもあるのでしょうか」と。

私は正直にお答えしました。もう手術をしてもがんを取りきれないし、
無理をするとかえって大変な結果になると。そうしたら彼女が喜びましてね。

【村上】
喜ばれたのですか。

【長堀】
実は彼女には肝硬変の夫がいたんです。子供がいなくて親戚も近くにいないから、
お互いに支え合って生きていかなければいけない。

だからこれ以上入院を続けて、家を空けているわけにはいかないと言うんですよ。

本当は旦那さんより奥さんのほうが病状はよっぽど重いんです。

でも彼女はこう言いました。「夫のことが私は心配なんです。
あの人は私がいなければどうしようもないから。
だからいつもがんの神様に、『もう少しおとなしくしていてくださいね。
私はもう少しあなた(がん)と頑張って生きていきますから、
大きくならないでくださいねってお祈りしているんですよ」って。

私はその言葉にとても感動しました。



【村上】
それは偉い方だな。

【長堀】
がんというのも細胞であって、
米国の細胞生物学者ブルース・リプトン博士は
細胞一個一個に、感性があるという話をしています。

例えば単細胞のミドリムシは餌があれば寄っていくし、
毒が来ると逃げていく。単細胞ですから脳みそも神経もないわけですが、
そういったことが全部分かる。

だから博士は「細胞はそれだけで完璧な生命体である。
しかも生きる感性を持っている」ということを言っているんです。

そうであれば、がんも細胞ですから生きる感性があるので、
当然人間の思いとも関係してくる実際、彼女は長く生きたんです。
もって1年という診断でしたが、3年半あまり生きることができた。
私は彼女の思いががん細胞に届いたのだと思っています。

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