「指導とは教え導くことではなく、教え導かれること」——常盤木学園高校サッカー部を17回日本一に導いた阿部由晴の指導哲学

これまで高校女子サッカー界で全国最多となる17回の日本一に輝いている宮城県の常盤木学園高等学校。創部以来、30年にわたってチームを率いているのが阿部由晴監督です。鮫島彩選手、田中明日菜選手、熊谷紗希選手をはじめとしたなでしこジャパンのメンバーを多数輩出し、〝なでしこの父〟と呼ばれる阿部監督が『致知』で語った、常勝軍団を育て上げる指導者の要諦とは――。
(本記事は月刊『致知』2014年6月号 特集「長の一念」より一部抜粋・編集したものです)

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考えさせるために観察する

――先ほど練習の様子を拝見いたしましたが、監督がベンチを動かずにずっと選手を見ておられたのが印象的でした。

〈阿部〉
サッカーで大事なのは、試合の流れの中で、選手一人ひとりがいま自分はどうすべきかという役割を理解し、考え、行動することです。これは日常の練習から意識してやることによってしか養うことができない。

で、選手に考えさせるのに一番邪魔なのが指導なんですよ。よく考えろと言いながら、すぐに答えを教えてしまう指導者がいますが、考えろと言う以上、ほったらかしにしておけばいいんです。

じゃあ、どこで指導するかと言ったら、練習をやる前にある程度のヒントを与えて、観察する。そしてまたヒントを与える。その繰り返しです。実際にプレーしている時には監督が余計な口出しをするのは邪魔でしかない。考えることができなくなってしまう。

――選手に考えさせるためにあえて黙って観察すると。

〈阿部〉
私も指導者になりたての頃はみんなと一緒にやるもんだと思っていました。でも、実はそれが選手の成長や私自身の視界を妨げていたことに気づいたんです。動かずにじーっと観察していると、それまでは見えなかったことがたくさん見えるようになりました。

当然、私の健康上、あまり思わしくないんですよ。特に真冬の寒い時期はベンチにずっと座っていたり、動かずに立っていたりするのは辛いです。それよりも選手と一緒に体を動かしていたほうがいい。ただ、そんなことをやっていたら選手は伸びないと思いました。自分の健康のためにやるんじゃなくて、彼女たちの未来のためにやっているんだから、そこを指導者である私が間違っちゃダメだと。

――生徒の未来のために指導する。

〈阿部〉
そうです。選手たちが正しく目標に向かって努力し、行動する。その結果から生じる人生の意義を本人たちがしっかりと捉えることこそ、未来に向けて大切なことです。

さらに彼女たちの将来は母親ですからね。やはり最終的には母親としての役割を全うできる素地だけはつくっていきたいなと。

でも、実は私が選手たちを教えているのではなく、選手たちからいろいろなことを私自身が教わっているんです。

例えば、熊谷紗希がキャプテンだった時に、私は部の規則を全部なくすって言ったことがありました。それだけものすごくいい選手が揃っていたし、チーム内の競争が激化していたので、細かいルールがないほうがいいだろう。そう判断したからです。

そうしたら、熊谷は「先生、それはやめてください」と言うわけですよ。どうしてだって聞いたら「基準がなくなります」って。つまり、彼女はルールの本質を知っていたんです。ああ、そのとおりだなと思いましたね。

だからそう考えてみると、そもそも指導っていうのは、教え導くことではなくて、自分が教え導かれることだと思います。

――教え導くのではなく、教え導かれるもの。

〈阿部〉
選手をよく見て、何を欲しているのか、あるいは何をしたいと思っているのかを理解した上で、アドバイスをしたり、ヒントを与えることが指導者の仕事なんです。


◎『致知』2025年11月号 特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」に阿部さんがご登場!!

常盤木学園高校女子サッカー部監督の阿部由晴さんと、福岡第一高校男子バスケットボール部監督の井手口孝さんは共に『致知』の愛読者。お二人は部員も数少ない創部時から日本一のチームづくりを志し、窮苦の日々を乗り越えて幾度も全国制覇に導いてきました。挫折や失敗をいかに受け止め、前進し続けられるか。スポーツに留まらず組織を率いる優れた指導者の秘訣がそこにあると感じます。

 本記事の内容 ~全9ページ(約13,000字)~
◇言葉の持つ力 『致知』は聖書のようなもの
◇心の扉を開くにはとことん付き合うこと
◇出逢いによって導かれた指導者への道
◇強い人間というのは我慢のできる人間
◇心の支えとなった名伯楽の言葉
◇監督は観察者でなくてはならない
◇常勝チームの秘訣は当たり前を積み重ねること
◇苦難は神様が与えてくれた試練
◇負けを知っているから強くなれる
◇ピンチはチャンス 失敗は必然

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◇阿部由晴(あべ・よしはる)
昭和37年秋田県生まれ。60年東北学院大学卒業後、教員免許を取得するため仙台大学に編入。同時期に地域少年団のサッカーコーチを経験し、指導者としてのキャリアをスタートさせる。複数の学校の教職を経て、平成7年常盤木学園高等学校に赴任、サッカー部を創部。5回の全日本高等学校女子サッカー選手権大会優勝をはじめ、これまで17回日本一に導く。著書に『なでしこの父』(エイチエス)『常盤木式女子力の育み方』(ベースボール・マガジン社)がある。

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