2025年10月13日
フランス料理の巨匠・三國清三氏。2025年9月にはカウンター8席の料理店「三國」をオープンし、独創的な料理で日本のフランス料理界を牽引し続けています。氏の原点には数々の師との邂逅があったといいますが、いかなる出逢いによって自己を磨き高めてきたのでしょうか。料理人を志した若き日々を振り返っていただき、運命を開く秘訣を探ります。対談のお相手は、「ハサミ一つで世界を変えた男」と称されたヴィダル・サスーンの下で研鑽を積み、〝カットの神様〟との異名を取る川島文夫氏です。
(本記事は月刊『致知』2025年10月号 特集「出逢いが運命を変える」より一部抜粋・編集したものです)
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人の嫌がる雑用が道を拓く
〈川島〉
これまで三國さんの著書は何回も読みましたけど、数々の出逢いに導かれてきた人生ですよね。
〈三國〉
1954年、北海道・増毛の漁師の家に生まれました。7人きょうだいでしたから、家は貧乏でしたね。高校に入る余裕はなく、お袋に「飯屋になれば死にはしない」と言われ、中学卒業後は札幌の米屋に住み込みで働きながら、夜間の調理師学校に通いました。
ある日、米屋の娘さんが賄いにハンバーグを出してくれたんですよ。それまでハンバーグを見たこともなかったので、とても食べ物とは思えませんでした。でも、恐る恐る箸を伸ばしたら、あまりのおいしさに衝撃を受けた。そして娘さんに「札幌グランドホテルのハンバーグはこんなものじゃない」と言われた瞬間、札幌グランドホテルのコックになってハンバーグをつくろうと肚を決めたんです。
ところが、グランドホテルは高卒以上じゃないと採用試験を受けられない。当然コネもありませんでしたが、たまたま調理師学校の卒業行事が札幌グランドホテルでのテーブルマナー研修でした。
そこで一計を案じて、帰り際に厨房に身を潜め、一番偉そうに見えた人に「ここで働かせてください」と直談判したんです。その方こそ、札幌グランドホテル初代総料理長の息子である青木靖男さんでした。
最初は呆れられましたよ。けれど、16歳の若造が「何でもやります。僕には後ろがない。前に進むしかない」と切々と訴えるものだから、青木さんも情が湧いたんでしょう。社員食堂の飯炊きのパートとして雇ってくれました。
〈川島〉
まさに青木さんとの出逢いが料理人としての運命を変えた。
〈三國〉
翌日からパートのおばちゃんたちに混ざって飯炊きをやりました。社員食堂の仕事が夕方六時に終わると、いつも地下の洗い場には宴会で用いた何百人分の洗い物が溜まっていました。それを一日の仕事が終わった夜更けに若手が嫌々洗っている様子を見て、自ら願い出て手伝い始めたんです。
毎日3、4時間かけて汚れた食器や鍋を1人で洗っていく。先輩が降りてくる10時頃には全部洗い終えていました。そうすると、皆喜んでね。「清三、ラーメン食いに行こう」と可愛がられたものです。
洗い物を続けて半年経った頃、特例で正社員にしてもらいました。
〈川島〉
人の嫌がる雑用が道を拓いたんですね。
本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇35年以上にわたり親交を深めてきた道友
◇すべての人を平等に綺麗にしたい
◇8席の即興料理店「三國」に懸ける思い
◇世界に負けるな 自分に負けるな
◇人の嫌がる雑用が道を拓く
◇運命を変えた〝料理人の神様〟との出逢い
◇〝厨房のモーツァルト〟から学んだこと
◇「ハサミ一つで世界を変えた男」との邂逅
◇ヘアデザインは偶然ではなくテクニックで成り立つ
◇どんな大波でも真っ直ぐ突っ込めば沈まない
◇人間が休む時は死ぬ時
◇いい美容師である前にいい人間でなければならない
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◇川島文夫(かわしま・ふみお)
昭和23年東京都生まれ。高山美容専門学校卒業。カナダの美容室勤務を経て、46年ロンドンの「ヴィダル・サスーン」に参加。48年東洋人初となるアーティスティック・ディレクターに就任。美容史に残るヘアスタイル「BOX BOB」を発表。52年「PEEK-A-BOO 川島文夫美容室」を表参道に開店。現在もサロン勤務を行いながら、日本全国・世界各地を行脚して技術指導に励む。著書に『プロフェッショナルの極意』(髪書房)がある。
◇三國清三(みくに・きよみ)
昭和29年北海道生まれ。15歳で料理人を志し、札幌グランドホテル、帝国ホテルにて修業後、49年駐スイス日本大使館料理長に就任。ジラルデ、トロワグロ、シャペルなど世界的な巨匠の下で修業を重ね、60年東京・四ツ谷に「オテル・ドゥ・ミクニ」開店。平成19年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。27年仏レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ受章。令和4年「オテル・ドゥ・ミクニ」閉店。7年黄綬褒章受章。9月、四ツ谷に「三國」開業予定。著書に『三流シェフ』(幻冬舎)など多数。
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