2025年10月07日
~本記事は月刊誌『致知』2025年11月号 特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」に掲載対談(勝利への道は、努力と辛苦の日にあり)の取材手記です~
絶対王者、二人の邂逅
アトランタ、シドニー、アテネと、柔道男子60キロ級においてオリンピック3連覇という前人未到の偉業を成した野村忠宏さん。
東京2020、パリ2024オリンピックにて、柔道男子66キロ級の金メダルに輝き、オリンピック2連覇中の阿部一二三さん。
世界の舞台で厳しい勝負を闘い抜き頂点に立った一流アスリート同士の対談が弊誌2025年11月号特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」にて実現しました。
今回の企画が持ち上がったのは、阿部さんが目指すべき存在として野村さんを尊敬しているとの情報を編集部員が得たことがきっかけでした。さっそく取材依頼をしたところ、お二人ともご快諾してくださり、対談は7月に都内ホテルにて行われました。
会場に現れた野村さんは、現役引退をしているとはいえ、いまだがっしりとした体格に眼光鋭く、絶対王者の風格が伝わってきました。一方、現役王者の阿部さんも、スーツの上からでもはっきり分かるほど筋骨隆々、周囲を圧する迫力を身に纏っていました。
対照的な二人の歩み
対談は阿部さんの2連覇達成に対する野村さんの賞賛と激励のメッセージから始まり、和やかに進行していきました。ただ、話題は次第にいかに厳しい勝負に勝利するか、いかに困難を乗り越え世界の頂点を掴むか、本質的な深い内容になっていきます。
特に印象的だったのは、お二人の柔道人生の歩みが対照的だったことです。
柔道一家に生まれた野村さんは、意外にも子供の頃から体格に恵まれず、体重は40キロ以下、ガリガリに瘦せていたと言います。中学になっても女の子に負けるなど、なかなか勝てない苦しい日々を過ごし、柔道指導者の父親からも「柔道を無理して続けなくてもいいぞ」と言われるほどでした。
野村さんはなぜ柔道をやめずに続けることができたのでしょうか。当時を振り返って次のようにおっしゃっています。
野村さん
「……いま勝てないからといって諦めてしまえば、自分には何も残らないと思っていました。あとは、3年後、5年後になるか分からないけれども、幼い頃に祖父の道場で覚えた背負い投げをもっと大事に磨いて、相手を投げたい、試合に勝ちたい、その一心でした。
理想の柔道を思い描き、いまの自分ではなく、真剣な努力を続けた未来の自分に期待しようと考え、柔道に向き合っていったんです」
いまの自分ではなく、真剣な努力を続けた未来の自分に期待する――まさに夢や志を実現していくための至言であり、いま努力を続けている若い人たちに届けたい言葉です。野村少年はこの言葉を胸に、諦めずに努力を続け、オリンピックへの道を歩み、見事世界の頂点に立つのです。
阿部さんは柔道とは関係のない家庭に生まれますが、両親がテレビで柔道の試合を見せてくれたことをきっかけに興味を抱き、地域の道場で柔道を始めます。小学二年生の時に女の子に負けてしまった悔しさをばねに、父親と猛特訓を開始。以降、中学、高校と全国大会で優勝するなど、早くから実績を残し、全国的にも注目される選手としてメキメキ頭角を現わしていきます。
阿部さんの強さを支えたのは、父親との二人三脚での努力はもちろんですが、小・中・高・大学と素晴らしい恩師に恵まれ、小手先ではなく相手としっかり組んで投げる「王道の柔道」を教え込まれたことでした。また、野村さんが豪快に相手を投げる姿をテレビなどで見て、「自分も投げて勝つ柔道をしよう!」と憧れ、決意したことも、阿部さんの柔道家としてのあり方を決定づけました。阿部さんは自らの柔道人生を導いた出逢いについて次のようにおっしゃっています。
阿部さん
「……いまも野村さんの背中を追い続けて、『オリンピックの舞台では投げて勝たないと意味がない』という気概で試合に臨んでいます。
ですから、柔道に限らず、どんな人に出逢うか、どんな憧れの人を持つかが、成長していく上でとても大事なことだと思います」
野村さん、阿部さんの実感の籠った言葉から、人を大成させていくものは何かが自ずと見えてくるのではないでしょうか。
苦難を乗り越え、人生を開く要諦
お二人の対談には、成功体験だけではなく、思うようにならない現実に苦悩したエピソードも語られます。オリンピック3連覇後、40歳まで現役を続行して己の限界に挑み続けた野村さんの柔道家としての覚悟。初のオリンピックを目指して臨んだ試合で敗北し、出場を逃した阿部さんの挫折と再起など、学びと気づきが満載です。
本記事の内容 ~全10ページ~
◇数々の戦いを経て風格ある絶対王者へ
◇女の子に投げられた悔しさをバネに
◇憧れる人を持つ―投げて勝つ柔道を目指す
◇未来の自分を信じ真剣な努力を続ける
◇一本が取れる柔道を―転機となった父の教え
◇限界は自分自身の心が決めている
◇決断した道を正解にするのは自分
◇諦めない気持ちが勝利を引き寄せる
◇苦難を乗り越えた先に新たな世界が待っている
◇真剣な挑戦に無駄なことは一つもない
◇努力の継続は天才を超える
最後に二人が対談時に語った珠玉の言葉をご紹介します。
「執念を持って結果にフォーカスした時に、人は大きな力を発揮できるんですね。もちろん努力する過程も尊いですが、どこまでも結果を求める、結果にこだわる姿勢が、人や組織を成長させる力になっていく」――野村忠宏
「私は中学の頃から『努力は天才を超える』を信念にしているんです。小学校の時に女の子に負けて悔しい思いをし、そこから父と一緒に必死にトレーニングを積み重ねていった。その努力と辛苦の日々があったからこそ、世界の舞台で闘えるいまの自分がある」――阿部一二三
数々の厳しい勝負と向き合い、世界の頂点に立った二人の柔道家の対談はぜひ『致知』2025年11月号特集「名を成すは毎に窮苦の日にあり」をご覧ください。
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