2025年10月06日
栃木県内に商圏を絞り、「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るサトーカメラ。同社副社長の佐藤勝人さんはビジネス書作家として12作目を出し、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」と情報発信を含め、全国各地の商工会議所で講演やセミナー、さらに企業や商店の現場へ出向いて個別支援をし、経営者育成塾「勝人塾」も主宰されています。
本連載ではそんな佐藤さんに、現代ビジネスマンから寄せられた悩みや胸の内の葛藤、さらには社会情勢までも「勝人節」でズバッと答えていただきます。
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身近な関係こそが人間の器を映す鏡
お客様には親切で丁寧と評判がよい。けれど社内ではなぜか部下に横柄な態度を取ってしまう――。
私は経営の現場で、こうした人を幾度となく見てきた。本人に悪気があるわけではない。むしろ「仕事人」としては有能で、社外では一目置かれている。しかし、社内では摩擦が絶えず人間関係がぎくしゃくする。なぜそんな矛盾が生まれるのだろうか? 自身に置き換えて考えてみた。
3年前のことだが、そういう部下の言動に腹を立てた私は、強い口調で言い返してしまったことがある。その瞬間、彼の表情が固まり、空気が一気に重くなったのをいまでも覚えている。
いまになって振り返ると、自分が社外の顧問先でそのような態度を取ることは決してない。そこでハッと気づかされた。彼らの態度は、結局はトップである私の姿勢がそのまま伝播した結果ではないか、と。私自身が「社内=感情をぶつけてよい場」と思い込んでいた。自らの未熟さを突きつけられ、深く反省した。
私はそこに、人が無意識に引いてしまう「線引き」があるのだと気づいた。
すなわち、お客様に対しては「仕事として丁寧に接する対象」 、社内の部下に対しては「感情を出してよい対象」 。こういう区別を無意識につけてしまっていたのだ。
お客様には「理解しよう」と必死に努力する。要望を聞き取り、気持ちを汲み、相手の立場に立って考える。そこには売上や評価といった成果が直結しているから。
しかし、社内となると態度が変わる。部下に対しては「理解してほしい」という側に回り、「わかってくれて当然」「察してくれ」という甘えが顔を出す。特に近しい関係ほど、自分を甘やかし感情を優先してしまう。
けれど忘れてはならないのは、理解とは本来、一方向の努力ではないということ。理解は相互行為であり、お互いが歩み寄ることでしか成り立たない。 「お客様は理解すべき相手」「部下は理解してくれるべき相手」――この思い込みがある限り、社内の信頼関係は育たないんだなぁと、痛感した。
人間学でよく説かれるのは、「身近な関係こそが人間の器を映す鏡だ」ということ。遠くの人に礼儀正しく振る舞うのは案外たやすい。しかし、家族や職場といった近しい存在に対して、どれほど丁寧に接し、理解する努力を惜しまないか――そこにその人の真の度量が現れる。
器の大きな人とは、社内外を問わず一貫して“理解する努力”を続けられる人間
では、どうすればよいか。私は2つの姿勢で自らを変えた。
第一に、社内にも〝顧客視点〟を持ち込むこと。部下に対しても「理解すべき相手」と捉え直す。彼らがなぜその判断をしたのか、どんな経験からそう考えるのか、耳を傾ける姿勢を持つこと。
第二に、感情を横に置く習慣を持つこと。近しい間柄だからこそ感情が先走りやすい。だからこそ、意識的に「事実を先に見る」。部下の言動を好き嫌いで裁かず、背景にある事実を探る。その冷静さが組織に安心感を広げる。
結局のところ、社外への理解は「成果」に直結し、社内への理解は「持続力」に直結する。両輪がそろって初めて、企業も人間関係も長く走り続けられるのだ。
私はこう考える。 「お客様にだけ丁寧で、部下には横柄」な人は社外では優秀でも、リーダーとしては未熟。本当に器の大きな人とは、社内外を問わず一貫して“理解する努力”を続けられる人間だ、と。
森信三先生は、「真の教育とは、家庭や職場など日常の場における人間関係の鍛錬である」と語っている。安岡正篤先生も「身近を治め得ざる者は遠きを治めること能わず」と教えている。
近い存在にこそ敬意を払い、理解を積み重ねる。その姿勢の延長線上にこそ、人としての成長も、組織としての繁栄もあるのだと。私も猛省中である(汗) Don’t miss it!
◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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