【取材手記】〝奇跡の人〟ヘレン・ケラーの挑戦~全盲ろう者として初の東京大学教授になった福島智氏が語る~


~本記事は月刊『致知』2025年9月号 特集「人生は挑戦なり」掲載記事の取材手記です~

指点字が紡ぐコミュニケーションの世界

ヘレン・ケラー(1880年~1968年) ――おそらくその名を聞いたことがない人はいない、誰もが知る世界の偉人です。

ヘレンは1歳7か月の時に、突然の高熱で目から光を、耳からは音を失い、全盲ろう者になりました。しかし、過酷な運命にも決して屈することなく、強靭な精神力と生来の探求心で厳しい訓練と勉学に励み、全盲ろう者として世界初となる大学進学を果たすなど、自らの人生を力強く切り拓いていきました。
その生涯は、多くの人々、特に社会福祉が十分に確立されていなかった当時の障害者の人々に、現在に至るまで多大な勇気と希望を与え続けています。

病気によって3歳の時に右目を、9歳の時に左目を失明、その後、右耳、そして左耳の聴力を失い18歳で全盲ろう者となった福島智さんもまた、ヘレンの生涯や言葉に、生きる力を奮い起こされてきた一人です。

福島さんはヘレンと同様、大変な辛苦を重ねて大学に進学し、さらに全盲ろう者として初となる大学教授になられました。まさに〝現代のヘレン・ケラー〟といってもよいでしょう。

福島さんには、これまで弊誌に何度もご登場いただき、書籍『ぼくの命は言葉とともにある』を出版していただきました。その際、ヘレン・ケラーを尊敬しているとおっしゃっていたことから、今回、福島さんにヘレン・ケラーの生き方を語っていただく企画が持ち上がったのです。さっそく打診したところ、ご快諾してくださり、2025年6月初旬、福島さんが特任教授を務める東京大学(東京都目黒区駒場)にて取材は行われました。

全盲ろう者の福島さんは、介助スタッフの〝指点字〟によって外部と意思疎通、コミュニケーションを行います。指点字とは、指をタイプライターのキーのように見立てて、言葉を伝える方法です。編集者の質問を介助スタッフの方が指点字で福島さんに「通訳」して伝えることで、健常者の会話と同じようなコミュニケーションが実現するのです。

指点字によって成り立つコミュニケーションを実際に体験し、まるで奇跡を見ているかのようでした。光も音もない「暗黒の真空」の中に、指点字によって言葉が生じる。その言葉の力を福島さんは、『ぼくの命は言葉とともにある』の中で次のようにおっしゃっています。

(福島)
私が幽閉された「暗黒の真空」から私を解放してくれたものが「言葉」であり、私の魂に命を吹き込んでくれたものも「言葉」だった。

編集者の質問が指点字で通訳されると、福島さんの表情が時に引き締まり、時にほころび、ひと言ひと言を噛み締めるようにして、深い思索に満ちた肉声が返ってくる。指点字の通訳が間に入る分、時間はかかりますが、その分、人と人が意思疎通するとは、言葉を通じて理解し合うとはどういうことなのか、その重みと意義を改めて実感する取材となりました。

 

 

ヘレン・ケラーとの邂逅

福島さんがヘレンのことを初めて知ったのは、小学1年生の3学期のことでした。通院の帰り道に母親が子供向けの伝記『少女ヘレン・ケラー』を買い与えてくれたのです。同書を視力の残る左目でむさぼるように読んだ福島さんは、「全盲ろう者でありながら、自らの人生をこんなにも逞しく生き抜いた人がいたのか」と大きな感動を覚えます。

その後、進学した筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属特別支援学校)高等部の1年生の時にも、福島さんは偶然、ヘレンの肉声を聞く体験をします。当時の運命的な出来事を次のように語っています。

(福島)
ある授業で、ビデオを流す場面があったのですが、先生が流す映像を間違えて、見知らぬ女性が日本語で挨拶する音声が流れました。「日本の皆さん、こん、にちは」。先生がすぐ止めてしまったため、10秒ほどの時間でしたが、それがヘレン・ケラーが来日した時の肉声だったのです。

先天的に耳が聞こえない、あるいはヘレン・ケラーのように生まれてまもなく耳が聞こえなくなった人は、どうしても独特な話し方になってしまうものです。ところが、ヘレン・ケラーの言葉はとても聞き取りやすく、自伝で読んだように発音・発声のものすごい努力、訓練を重ねたことが伝わってきました。しかも慣れない日本語での挨拶ですから、なおさらです。

そして福島さんは、ヘレンの肉声を聞いた1年後、最後に残っていた左耳の聴力を失ってしまうのでした。ヘレンと同じ立場になったことによって、福島さんの中でヘレンの存在はますます大きなものになっていきます。

ヘレン・ケラーだったらどうするだろう――人生の折々にヘレンについて考え、調べることが、福島さんの人生を支え、進むべき道を示す羅針盤となったのです。

偉人の魂の言葉

取材では、福島さんが自らの人生を交えて、ヘレン・ケラーの生涯と挑戦の軌跡、心に残る珠玉の言葉を語っていただきました。

いかにヘレンが障害と向き合い、乗り越えていったかについてはぜひ本誌をご覧いただきたいのですが、ヘレンの偉大さを端的に示す言葉を福島さんがご紹介くださっています。

「もしもこの世が喜びばかりなら、人は決して勇気と忍耐を学ばないでしょう」

「困難は神が与えた試練であり、愛の現れである」

「人生は恐れを知らぬ冒険か、それとも無かのどちらかである」

人間は誰しもうまくいかないことや困難に直面すると、どうしてもその原因を周囲の環境に求めてしまいます。しかし、生まれて間もなく視力も聴力も失い、ないない尽くしの過酷な条件から自らの運命をひらいていったヘレンの生涯は、私たちに「人生は環境にあるのではなく、自分は何のために生き、どんな生き方をしたいのかという意志の中にある」ことを教えてくれると、福島さんは力を込めて語ります。

皆さまも、ぜひ福島さんが語るヘレン・ケラーの生き方を通じて、人はどう生きるべきか、人がよりよく生きるとはどういうことか、そのヒントをつかみ取っていただければ幸いです。

~本記事の内容~
◇光と音を失っていく中で―ヘレン・ケラーとの出逢い
◇生来の積極性が成長の原動力に
◇優れた教師であり、天性の通訳者
◇なぜヘレン・ケラーは「奇跡の人」となったのか
◇辛苦に耐えて人生の扉をひらく
◇挑戦とは他者と共に新たなものを生み出すこと


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▼プロフィール
福島 智(ふくしま・さとし)
1962年兵庫県生まれ。3歳で右目を、9歳で左目を失明。18歳で失聴し、全盲ろうとなる。1983年東京都立大学に合格し、盲ろう者として初の大学進学。金沢大学助教授などを経て、2008年より東京大学教授。2023年4月より現職。盲ろう者として常勤の大学教員になったのは世界初とされる。社会福祉法人全国盲ろう者協会理事、世界盲ろう者連盟アジア地域代表などを務める。著書に『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社)、電子書籍に『渡辺荘の宇宙人』(素朴社)などがある。2022年11月、その半生を描いた映画『桜色の風が咲く』が公開され大きな反響を呼んだ。

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