2025年08月14日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。1945年の終戦から本日で80年を迎えます。現代を生きる私たちは先の大戦への道のり、戦後の歩みを振り返り、その歴史の教訓の中から未来への知恵を学ばなければなりません。遡ること10年前、戦後70年を迎えるにあたって2015年8月14日に安倍晋三首相が発表した「戦後70年談話」は、謝罪外交に終止符を打つ意志を表明したと大いに賞賛されました。そこで本記事では、保守論客の重鎮だった渡部昇一先生がご生前、安倍氏の戦後70年談話の功績について語られた文章を再掲します。
(本記事は平成27年8月に弊社が発行した「昇一塾ニューズレター」の内容を編集したものです)
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安倍首相は歴史に残る大宰相となった
安倍首相の戦後70年談話を聞き終えた後、思わず快哉(かいさい)を叫びました。歴代内閣が続けてきた謝罪外交に遂に終止符を打つ瞬間が訪れた、と素直に思いました。
細かい分析をすれば十分ではない表現もあります。しかし、この首相談話はとても歴史的価値の高い内容となりました。日本の名誉回復の嚆矢(こうし)であり、大いに賞賛し、評価すべき談話です。
談話で最も注目すべきは、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」という一文です。この謝罪は昔から行われていたものではありません。
公式な場で日本が侵略戦争であると発言したのは1993年の細川内閣です。その2年後に誕生した村山内閣は談話を発表してアジア諸国に謝罪しました。約20年にわたる日本の謝罪外交と中国・韓国の執拗な要求はここからスタートしたことを知らなくてはいけません。
こういう談話は一度出てしまうと、これを直すのが困難を極めます。事実、日本は中国や韓国から今日に至るまで異常とも言えるほどの糾弾を受けるようになり、結果として日本の名誉と誇りは限りなく貶められ、傷つけられてきました。安倍首相の談話はこの謝罪外交に決着をつける画期的なものとなりました。
日本を侵略国家として断罪してきた根拠は、唯一東京裁判です。安倍首相は談話によって謝罪の元凶ともいえる東京裁判を否定した、という見方もできます。その点でも大いに評価に値します。
首相談話は、100年以上前の世界情勢から歴史を概観します。西洋諸国の植民地支配の中で日本は近代化に取り組み、アジアで最初の立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争では植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。これらは疑いようのない事実です。村山談話や小泉談話にはなかった、日本が誇るべきこれらの文言が盛り込まれたことには極めて大きな意義があります。
もう一つ、特筆すべきことを述べておきます。安倍談話には有識者会議の報告書にはなかった文言も随所に盛り込まれていました。例えば、戦後日本の発展を支えた諸外国の姿勢に感謝の意を表した次の一文です。
「私たちは、心に留めなければなりません。……米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、互いの戦死者のために慰霊を続けてくれる事実を」
彼らが日本を訪れた時、戦死者のために慰霊を続ける場所。それこそがまさに靖國神社でした。旧日本軍の捕虜たちまでが日本を訪れて靖國神社を訪れたのです。安倍首相はここでも直接的な表現を避けつつも、暗に靖國神社参拝の意義を述べました。
首相談話を通して総じて思うのは、安倍首相は名実ともに大宰相の器を備えてきたということです。
談話自体もさることながら、歴史に残る名文に仕上げたのはまさに安倍首相の卓越した見識に他なりません。安倍談話に対するマスコミや野党の批判は相変わらずですが、一方で国民の多くが談話を評価し、支持率も向上しました。
謝罪外交に終止符を打ち、日本を一方的に悪者と断じた「東京裁判史観」からの自由を明らかにしたこの安倍談話は大いに賞賛すべきですし、いずれその価値が分かる時が来ると私は確信しています。
◇渡部昇一(わたなべ・しょういち) ◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学文学部大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c. 平成13年から上智大学名誉教授。幅広い評論活動を展開する。著書は専門書のほかに『これだけは知っておきたいほんとうの昭和史』『渡部昇一の少年日本史』『渋沢栄一 男の器量を磨く生き方』『国民の見識』など多数。平成29年逝去。