【取材手記】勝利の秘訣は日常にあり——世界チャンピオンが苦節を経て掴んだ勝負哲学〈登坂絵莉〉


~本記事は月刊『致知』20257月号 特集「一念の微」掲載記事の取材手記です~

無類の強さを誇った世界チャンピオン

・全国中学生選手権優勝
・全国高校女子選手権2連覇
・全日本選手権4連覇
・世界選手権3連覇
・リオデジャネイロ五輪金メダル

レスリング選手としてこれ以上ないほどの実績を打ち立て、同級でまさに無類の強さを誇ってきたのが登坂絵莉さんです。

登坂さんとは、ある授賞式でご縁をいただき、その実績、競技に対する熱意、お人柄に感銘を受けていたことから、去る4月10日(木)、弊社オフィスにて取材が実現しました。

お会いしてまず驚いたのは、登坂さんが醸し出す雰囲気です。

現役時代、テレビで度々拝見していた、マット上で見せる鋭い眼差しとは打って変わって、非常に柔和で温厚な雰囲気を漂わせる登坂さん。溌剌とした受け答えと満点の笑顔が随所に見られ、終始和やかな雰囲気で取材は進行していきました。

現役を引退された現在は、一般社団法人「スマイルコンパス」の代表理事として、全国の支援学校などでスポーツ交流とトークセッションを実施し、子どもたちにスポーツをする楽しさを伝えていらっしゃるのだとか。

取材では、そんな現在の活動に懸ける思いを交えつつ、幼少期からのレスリング人生を振り返っていただきながら、厳しい勝負の世界を歩む中で掴んだ勝負の要諦、人生を発展させる心構えについて詳しく伺いました。

記事の内容は次の通りです↓

◇勝敗以上に成長する喜びを
◇日本一から一転して挫折を味わう
◇夢が目標に変わった日
◇残り13秒からの逆転劇で金メダルを掴む
◇人生で大切なのは一日一日の積み重ね

登坂絵莉(とうさか・えり)
平成5年富山県生まれ。8歳でレスリングを始め、中学3年時に全国中学生選手権で優勝。21年愛知県の強豪・至学館高校に入学し、2年、3年時に全国高校女子選手権を2連覇。24年に至学館大学へ進学。同年から27年まで全日本選手権で4連覇、うち25年、26年は世界選手権で2連覇を果たす。28年初出場となったリオデジャネイロ五輪で優勝。その後は怪我に苦しみながらも現役を続け、令和4年引退を発表。5年一般社団法人「スマイルコンパス」を設立し、子供たちにスポーツの楽しさを伝えている。

結果ではなく、成長にフォーカスする

華々しい実績を挙げ、順風満帆に歩んできたように見える登坂さんですが、取材を通して、意外にもその経歴の裏には幾度もの挫折があったことが分かりました。その最たる出来事が、高校進学のタイミングで訪れます。

前述の通り、中学3年時に「全国中学生選手権」で優勝。その後、さらなる高みを目指して、登坂さんは愛知県の名門・至学館高校に進学します。

同校は伊調馨さんをはじめ多くの名選手を輩出してきた強豪校でした。そんな新たな環境を前に、期待に胸を膨らませる登坂さんを待ち受けていたのが……。

初めて迎えた練習で早くも心が折れました。8歳からレスリングをしてきて、負けることはあっても、その度に自分を奮い立たせて前を向いてきました。ところが、この時ばかりはあまりのレベルの高さに絶句しました。このままでは五輪はおろか、どう足掻いてもこの人たちに勝てないと思ってしまって。目的や五輪への意欲も完全に失い、しばらくはただ練習をこなす日々が続きました。

これまで二人三脚で歩んできた父親や家族、指導者たちのためにもすぐに競技を辞することは踏み止まったものの、高校卒業と共にレスリングから離れようと決意するほど追い詰められたと言いますから驚きです。

当時の登坂さんのように、日々生活する中では、予期せぬ壁に直面することがよくあります。目的や目標、モチベーションを失い、エネルギーが湧かない。そんな経験を持つ方も多くいらっしゃることでしょう。そんな時にどう切り替えればよいのか。登坂さんがとった方法は、そんな境遇に置かれた際に、大いにヒントとなるものでした。

それからは勝敗というより、自分自身に向き合うようになりましたね。毎回10対0で負けている先輩から1点でも取ろうとか、3分かかるランニングを2分59秒で走ろうとか。とにかく結果じゃなくて、自分の成長に集中しようと切り替えました。すると次第にやりがいや成長を感じることができるようになって、不思議と結果もついてくるようになったんです。

結果ではなく、「成長」に集中する──。

結果は常に外的な要素も混じりあって決まるものですが、成長は常に自分次第。自分自身の成長に集中すれば、たとえ結果は出なくとも、やればやるだけ自信がついてくるということでしょう。

さらに、注目すべきは成長にフォーカスすることが、その先にきちんと結果に繋がっていったという事実です。結果が出なくて悩んでいるという人は、結果ではなく成長に視点を切り替えることが状況を打開する突破口になるのかもしれません。

本番で出せるのは、いつも通りの自分だけ

登坂さんと言えば、なんと言っても初出場で優勝を果たしたリオデジャネイロ五輪が思い出されます。当時の活躍を覚えていらっしゃる方も多いと思います。

大会に臨む心境や、奇跡の大逆転で優勝を掴むまでのストーリーは本誌に譲るとして、ここではその一部である、優勝を手繰り寄せた要因と「結果を出す秘訣」について、心に響いた言葉をご紹介します。

取材で登坂さんが繰り返し強調されたのは、平素の重要性です。言い換えれば一日一日をどう過ごしているか、どう積み重ねているかということ。勝敗を決する要因は突き詰めていえば、日頃の積み重ねにあるというお話が印象的でした。

次の言葉は、そんな登坂さんの勝負観を端的に表しています。

追い込まれた時こそ本当の実力が出るし、普段できないことは本番でもできないと思っています。いつだって、出せるのは積み重ねたいつも通りの自分だけ。優勝を決めたタックルも最も時間をかけて練習した技でした。徹底した準備、毎日の積み重ねから生まれた結果だと思います。

奇しくもご登場いただいた7月号の特集テーマは、「一念の微」。「一念の微」とは、東洋思想家の安岡正篤師が遺した言葉「永久の計は一念の微に在り」に由来しており、人生はかすかな一念の積み重ねが、やがて大きな差となって現れる、という意味です。

まさに登坂さんは、幼少期からのレスリング人生を通じて、気が遠くなるほど地道な努力を積み重ね、その言葉の本質を掴まれたのでしょう。

輝かしい未来は、真面目な一歩一歩の積み重ねの上にしかありません。

まさに言葉通りの人生を貫いてこられた、登坂さんならではの力強い言葉です。

本誌にはその他、

・大切なのは「質より量」でも「量より質」でもなく「〇〇」
・憧れの存在・吉田沙保里選手から教えられたこと
・悔しさを忘れないようにするための方法

等々、登坂さんの勝負哲学がぎっしりと詰まっています。詳しくは本誌をご覧いただき、登坂さんの歩み、考え方に触れていただけたら幸いです。

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