【取材手記】病気になっても病人にならないために

~本記事は月刊誌『致知』2025年5月号 特集「すれどもうすろがず」掲載対談の取材手記です~

一冊の本を通して繋がっていた二人

皆さんは、突然、理由も分からないままに余命を宣告されたら、どうしますか? あるいは、何も心当たりがないのに体調が悪くなり、いくつ病院に行っても原因が分からなかったら、どう思いますか?

米澤佐枝子さんと栗生隆子さん。このお二人は、まさにその状況に置かれ、現在まで生き抜いてこられました。

米澤さんは2年前(2023年8月号)、栗生さんは7年前(2018年11月号)で初めて『致知』にご登場いただきました。それをきっかけとしてこの企画が持ち上がり、3月初旬、雨がぱらつく東京・表参道の致知出版社にて対談が行われました。

東京都世田谷区にある「あなたと健康社」料理教室の主任講師として活躍する米澤さんは、写真を見て分かる通りの溌溂ぶり。30代で末期がん、余命1年の宣告を受けながら、見事に完治を果たした方です。「『あな健』に入社してもう45年になるかな。気がついたら83歳。教室がある月曜から土曜まで、毎日出ているの」と、年齢を忘れさせる話しぶりに思わず惹きつけられます。

そんな米澤さんを驚きと共に喜ばせたのは、栗生さんが持参された一冊の本でした。「きょうはせっかくなので、私がお守り代わりにしている本を持ってきました。米澤先生が師事された東城百合子先生の『自然療法』です」。栗生さんは、14歳から原因不明の体調不良に悩まされ、ある健康法との出逢いで20年越しに健康を取り戻された方です。その長い闘病期間に出逢い、大切に読み返してこられた本が、米澤さんの師匠である自然療法の大家・東城百合子さんの著書でした。自分の病気はもちろん、家族の体調不良があった際も、拠り所としてきたと語られました。 

年齢にして30の開きがあるお二人が、一冊の本を通して、ずっと前から接点を持っていたのです。これによってお二人はたちまち意気投合。場の雰囲気が、最初に増してパァッと明るくなったように感じられました。病に見舞われ、それぞれ異なる方法で快活な人生に辿り着かれた人ならではの、興味深い健康談義はこうして始まりました。

足元が疎かになっていませんか

健康の大事さは、多くの人が頭では重々分かっていることです。ところが、具体的に何をしているかと言われると、途端に困ってしまう方も少なくないでしょう。

私たちは、いかにすれば健康に生きられるのか。大事なのは食? 睡眠? それとも別の何か? 本対談が始まって早々に、お二人のお話が一致したことは「生活」の大事さでした。

〈米澤〉
料理教室といっても、料理だけを学ぶところじゃないの。掃除・洗濯・料理、この3つを、「生活道」を教えているのね。一番大事なのは料理、食。そしてちゃんと洗濯をして、掃除をする。これが〝いのちの根っこ〟を養ってくれるんです。

料理指導を通して、人間が健康に生きるための考え方と方法を学ぶ「あな健」の料理教室では、料理のレシピだけを教えているのではありません。一番大事なのは食だとしつつ、掃除や洗濯といった、生きる上で欠かせない家事をきちんとする方法を学ぶのだそうです。それがその人を力強く支える〝生活の根っこ〟になる、と。
〈栗生〉
生活が心を整えてくれますよね。私は、家庭の台所でできる「毎日の発酵」を実践、発信しているんです。
例えば料理の後、野菜が半玉余る時があるじゃないですか。その食材は、冷蔵庫にただ入れておいたらしなびたり、腐ったりします。でも、塩を振って容器に蓋しておけば、乳酸発酵が始まって保存が利く。食べたら乳酸菌が摂れる。無駄がありません。
年に一度、味噌や漬物を仕込むのもいいですけれど、日々ちょこちょこできる発酵で食材を生かす、菌の力を借りる。これだけで生活が整い、健康になっていける。この日本の知恵を広めたいのです。

栗生さんが広めている、日本古来の知恵「発酵」。それは何も、食事全部を一気に発酵食品に変えるというものではありません。健康に気をつけようと思うと、つい特別なことをやろうと考えがちです。忙しいとなおさら、無意識にそういうものに頼ってしまいたくなります。

しかしそうではなく、日々の何気ない習慣、生活こそが大事であり、生活が整えば自ずと体調も整う。大前提として、足元が整っていることが大事とだというのが、お二人の考え方。『自然療法』を著された米澤さんの師匠・東城百合子さんは、昨今の日本には「生活がない」と嘆かれ、生活が一番大事だと説かれたそうです。お二人の語り合いには、日本人が生活という足元を見失ってしまう、大きな原因である病気と、いかに向き合っていくかが示されています。

深い気づきと愛に満ちた語らい

米澤さんは、静岡県の田舎に生まれ育ち、病弱だった幼少期を経て料理の道に進まれます。JICA(国際協力機構)の職員だった夫についてブラジルに渡航。現地で三人目の子供が生まれた30代の時に突然、転機は訪れます。体調に異変を感じ、病院に行くと、その場で末期がん、そして余命1年の宣告を受けたのです。

知り合いなど数えるほどしかいなかったであろう異国の地で、幼い子供を三人抱えての余命宣告。その心細さは察するに余りあります。

〈米澤〉
宣告された時は、「どうして病気になっちゃったの?」「私の生き方が何か間違っていたのかな?」と、考えさせられました。

いまでこそ元気溌溂の米澤さんは、そこから、どう立ち直っていったのでしょうか。現地の心あるお医者さんとの出逢いを経て、帰国後、東城百合子さんと面接の末に「あなたと健康社」に入社。弟子入りして間もない頃のエピソードが鮮烈でした。

対して、岐阜の田舎でのびのびと育ちながら、14歳のある日を境に、原因不明の体調不良に悩まされるようになった栗生さん。ふとした折に襲ってくる下痢が主な症状だったといいますが、その恐怖に駆られ、中学・高校時代は勉強はもちろん、友達との交流や部活動など、大切な思い出をいくつも諦めざるを得なかったそうです。

〈栗生〉
学業どころではなくて、授業が終わって友達と遊びに行くこともできませんでした。
極端に痩せはしませんでしたけど、それが逆に困難で。見た目が健常者と変わらないので、お医者さんでも診断がつかない。親も治療を探してくれるわけです。でも全然治らないから、私たちは何もできない、って傷ついていく。(中略) 当時は自分の体調と、親に心配をかけないで生きなきゃという、二重の苦しみでした。

何年も、いくつもの病院、治療法を試し、一時的には効くものの根本治療には至らない。家族もその事実に傷つき、さらには初め効いていた薬にも体の耐性がついてしまい、だんだん効かなくなってくる。まさに絶望的な状況です。もし自分がそんな状況に置かれたら、平気ではいられません。

長年の忍耐も限界に達し、さすがの栗生さんも自死が頭をちらつき出したそうです。そのどん底で、何を頼りに希望を見出していかれたのか……。

本対談では、お二方からその軌跡を赤裸々に語っていただきました。

対談取材を終えて感じたこと。それは決して簡単なことではありませんが、与えられた状況、病気を受け入れ、できることをやり続けていく大切さです。そうして自分の「生活」を取り戻すことが、健康で幸福な人生に辿り着く第一歩。そして、それこそが、「病気になっても病人にならない」生き方のコツなのではないでしょうか。
それぞれの人生観が凝縮されたお二方の言葉は、深い気づきと愛情に満ちた〝だしの一滴〟のような輝きを持って迫ってきました。記事を通して、それをお受け取りいただければ幸いです。


 ↓ 対談内容はこちら!

~本記事の内容~
◇日々の「生活」が〝いのちの根っこ〟になる
◇30代、幼子を抱え突然の余命宣告
◇14歳で始まった出口の見えない闘病
◇命は天に任せよう
◇病を与えられたこの自分を生き切る
◇病が教えてくれたこと
◇叱られ泣かされ愛されて
◇心のとらわれを外せば世界が広がる
◇病気になっても病人にならない生き方
◇病気にとらわれず与えられた命を生きる

▼本記事は現在〈致知電子版〉のみで閲覧いただけます!

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