「自分だけのプラス1を探しなさい」——井村屋・中島伸子氏を支えた父からの手紙

年間3億本を販売する「あずきバー」をはじめ、数多くのロングセラー商品を手掛ける井村屋グループを率いる中島伸子氏。アルバイト出身から同社初の女性社長に抜擢されるにまで至った背景には、波乱万丈な歩みがありました。20歳の時、北陸トンネル列車火災事故に巻き込まれ、失望の中にあった中村氏を支えたという御父様からの手紙をご紹介します。
(本記事は『致知』2024年6月号 特集「希望は失望に終わらず」より一部を抜粋・編集したものです)

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「自分だけの〝プラス1〟」父の手紙を心の支えに

<中島>
私自身、一酸化炭素中毒で声帯が麻痺して声が出なくなり、3か月入院しました。

最初に喉から煤の塊が出てきた時は驚きでしたよ。

声を使う仕事は諦めたほうがいいと医者に言われ、教師の道を断念せざるを得なかったんです。

自分の行き先がある日突然プチッと切れてしまった。

少しずつかすれ声は出るようになりましたが、退院して3~4か月は実家で療養しながら何もせずにぶらぶら過ごしていました。

──その後どうされたのですか?

<中島>
ある時、父が手紙をくれましてね。こう書かれていました。

「君は自分の人生をどうするんだ。声が出なくても立派に生きている人はたくさんいる。声が出ないことを気にするんだったら、自分だけの〝プラス1〟を探しなさい。それがあれば必ず人の役に立つ。〝辛い〟という字に一本足せば、〝幸せ〟という字になる。それを忘れずに一所懸命生きていくことが亡くなった人への恩返しであり使命ではないか」

──胸に沁みる言葉です。

<中島>
この手紙は非常に心に残っていて、アルバムに貼っていまでも大切に持っています。

当時の私は、あのお母さんから託された子供の命を救えなかった後悔や事故の後遺症で教師の夢を絶たれた無念に苛まれ、この辛い気持ちをどうしたらいいか分からない、誰かに救ってほしいという未熟さがあったんですね。

父の言葉が何にも代えがたい心の支えになり、それをきっかけに立ち直っていきました。

短大を卒業後、高校時代の同級生と結婚し、声をあまり使わなくてもできる仕事をと思って始めたのが、井村屋の福井営業所での経理事務のアルバイトだったんです。

──最初はアルバイトとして入社された。

<中島>
23歳の時です。

経理は未経験だったので、夜間学校に通って勉強しましたし、電話番はできない代わりに、配達でもトイレ掃除でも何でもしますと言って、4トントラックの免許を取得して運転したりもしました。

その時に、「ああ、そうか。仕事に貴賤はない。必要だからその仕事が存在している。どんな仕事でも一所懸命やろう」と思ったんです。

そこに、父から言われた「プラス1」を足せばきっと私らしい仕事ができると。

そういう中で、カップアイスの蓋を開けやすくする改善提案をしたところ、これが採用されて賞をもらいました。

バイトでも分け隔てなく表彰してくれる社風に感動しましてね。

学校の先生になりたいという未練を捨て、社員登用試験を受けて正社員になったんです。1978年、25歳の時でした。


創業から50周年を迎え、数多くのロングセラーを手掛ける井村屋グループ。そんな井村屋を率いるのが、中島伸子さんです。幾多もの試練に見舞われながらも、道なき道を切り開き、アルバイトから同社初の女性社長にまで抜擢されました。本記事では中村氏のこれまでの歩みを振り返りながら、チームの心を一つにする秘訣に迫りました。

◉『致知』2024年6月号特集「希望は失望に終わらず」◉
インタビュー〝「人生のハンドルを握り扉を開けられるのは自分だけ」“
中島伸子(井村屋グループ会長CEO)

 ↓ インタビュー内容はこちら!

◆ミッションは「おいしい!の笑顔をつくる」
◆いかに社員を育てチームの心を一つにするか
◆「特色経営」と「不易流行」の追求
◆「あずきバー」が年間3億本売れる秘訣
◆20歳の直前に運命を大きく変えた事故
◆「自分だけの〝プラス1〟」父の手紙を心の支えに
◆目を覚まされた3時間の説教
◆仕事の師・浅田剛夫から受けてきた薫陶
◆アルバイトから経営者へその源泉にあるもの
◆今期の経営メッセージと大切にしている2つの信条

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◇中島伸子(なかじま・のぶこ)
昭和27年新潟県生まれ。50年豊岡女子短期大学教育学部卒業。井村屋製菓(現・井村屋グループ)福井営業所でのアルバイトを経て、53年正社員として入社。経理課長、福井営業所長、北陸支店長、関東支店長、常務取締役総務・人事グループ長、専務取締役などを歴任し、平成31年代表取締役社長に就任。令和5年より現職。

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