リーダーに必要な7つの姿勢〈JR東海名誉会長・葛󠄀西敬之〉

日本の大動脈輸送を担う東海道新幹線を中心に、鉄道事業を展開するJR東海。同社を「創業」から牽引してきた故・葛󠄀西敬之さん。
かつて経営危機に陥った国鉄の分割民営化を現場で推進し、多額の債務を背負った大企業をどう繁栄発展させてきたのか。葛󠄀西さんが語った、変革を成し遂げるリーダーに必要な7つの姿勢とは――。
(本記事は月刊『致知』2020年3月号 特集「意志あるところ道はひらく」より一部を抜粋・編集したものです)

強固で不動な意志がすべてを決する

〈葛西〉
これまでの体験を通じて私が実感している、リーダーが持たなければならない7つの姿勢について述べたいと思います。

1つは、「外向性」です。中を安んじて外に向かうべきもの。

最近、経営者が「社員と仲良く仕事ができるような環境をつくり、大過なく社長の任期を終えたい」というようなことをよく口にしています。ナンバー2ならそれでよいのですが、リーダーは外に向かっていなければなりません。

日本は島国で海に守られていて、他国からの侵略があまりないこともあり、外と向き合う機会が少ない。従って国内の諍いを治めることがリーダーにとって一番大切だと考える傾向が強いようです。

しかし、経営者は会社の代表として常に外を向いているべきであって、もちろん社内のことも大事ですが、社内のことだけにかまけてしまっては、リーダーとはいえないと思うのです。

2つ目は、「自律性」です。何を成すべきか、何が正しいかを自らの判断で決し、自らの意志で行動し、一人で結果責任を取る心構え。

これはこれまでお話ししてきた通りです。国鉄の経営が崩壊した最大の理由は何かというと、自分のことを自分で決められなかったからに他なりません。

3つ目は、「主動性」です。有限の戦力で最大の効果を上げるためには主動が不可欠。主動によって集中・即行が可能になる。

戦いにおいて守っている時というのは、相手がどこから攻めてくるか分からないので、自分の力が百だとすれば、その百の力を360度に分散することになります。そうすると、一つの局面では1以下の力しかない。

一方、同じ百の力を持っている人が攻撃する場合には、その100の力を1点に集中して攻撃すれば突破できるわけですから、やはり常に仕掛けたほうが勝つ。それが主動ということです。

主動すると、戦力を集中できると同時に、素早く行動できます。エネルギーはM(質量)×V(速度)の2乗という式で表されますので、速度がライバルの2倍あれば4倍のエネルギーを発揮することができます。

どこを攻めるか、何をどうするかを速やかに決めて主動することが大切であり、常に心掛けるべきです。

捨て身の姿勢なくして成功なし

4つ目は、「明快性」です。何を是・非とし、何をせよ、何をするなと言うのか。

何をやろうとしているのか分からない曖昧な言い方をするリーダーが政財界に多くいます。しかし組織に属する人たちから見ると、そんなリーダーにはついていきにくい。何は良い、何は悪い、何をやれ、何をやるな、ということはリーダーがきちっと決めて部下に指示しないと、組織の力を結集することはできないのです。

5つ目は、「不動性」です。一旦決したら、遅疑逡巡しない。

いささか硬直的に感じるかもしれませんが、常にグラグラ揺れ、ちょっと状況が変わったからといって、決心が鈍るようなことがあると、勝てる戦いにも負けてしまいます。上が迷えば下はもっと迷ってしまうため、そんな弱々しいリーダーではなく、一旦決めたら決着がつくまでは不動の姿勢で努力することが大事だと思います。

6つ目は、「一体性」です。信じて任せ切り、成功体験を共有する。

私はこれまでたくさんの人と一緒に仕事をしましたが、おそらく100人のリーダーのうち99人は自分が言った通りに組織が動き、自分の手足のように部下を使いたいと思っているでしょう。しかしそれでは自分の力以上の成果は出せません。

反対に、大きな方向と戦略を決めたら、「それを実現するための具体的な戦術については君の好きなようにやりなさい。もし失敗したら私が責任を取るから」と言って人に任せることによって、自分の力のみならず、部下の力も含めて成果を高めることができます。

信頼の条件としては、まずリーダーである自分が部下を信じなければ、部下は自分を信じてくれません。また、何かを一緒にやって成し遂げたという成功体験があると部下はついてきます。

最後は、「捨て身性」です。常に捨て身になる必要はないと思いますが、何か大きな問題に取り組む、ここ一番という時には、敢えてリスクを取り、捨て身にならないといけません。

JR東海の戦略オプションとして使命優先を選択する、あるいは新幹線保有機構のリース料を他社よりも多く背負って固定する。これらはまさしく捨て身の決断でした。

捨て身の姿勢なくして成功した人や発展した組織はありません。常にリスクはある。そのリスクを敢えて取って無我夢中に打ち込むのです。


(本記事は月刊『致知』2020年3月号 特集「意志あるところ道はひらく」より一部を抜粋・編集したものです)

◉前例のない改革を成し遂げた業界の旗手として、晩年までリーダーに求められる資質、古典の教えを授けてくださった葛󠄀西敬之名誉会長。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

◇葛西敬之(かさい・よしゆき)
昭和15年生まれ。38年東京大学法学部卒業後、日本国有鉄道入社。44年米国ウィスコンシン大学経済学修士号取得。職員局次長などを歴任し、国鉄分割民営化を推進。62年JR東海発足と同時に取締役総合企画本部長。平成7年社長。16年会長。26年より名誉会長。著書に『飛躍への挑戦』(ワック)など。

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