平岡和徳×佐々木洋 【名将対談】 選手を夢中にさせる秘訣はどこにあるか

熊本の公立高校サッカー部を全国屈指の強豪校へと導き、実に50人ものリーガーを輩出してきた平岡和徳さん。低迷していた高校野球部を甲子園の常連校へと変革し、菊池雄星選手・大谷翔平選手といったメジャーで活躍する一流選手を育ててきた佐々木洋さん。体験を通じて築き上げたお二人の教育観・指導論には学ぶことが尽きませんが、今回はいかに選手を熱中させ、チームの実力を高めていくか、その真髄に迫るお話をご紹介します。

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変化の先の進化を実現する

〈佐々木〉
平岡先生が監督を務めていらっしゃる大津高校サッカー部の活躍は目覚ましいですね。

〈平岡〉
昨年、熊本県で三冠(新人戦、高校総体、全国選手権熊本大会)を達成したレギュラーが卒業して新チームになりましたが、県大会優勝、九州大会も優勝といういい流れをつくってくれました。

全国大会では優勝候補の青森山田高校に惜敗しましたが、何とかこの冬の熊本大会に優勝して二年連続の県内三冠を実現し、全国大会でリベンジを果たすべく練習に力を注いでいるところです。

実は、県内の強豪校で指導しているのはほとんどが僕の教え子で、うちとの試合になると目の色を変えて立ち向かってくるんです(笑)。大津高校がそういう過酷な戦いの中で勝ちを積み上げて、全国から「公立の雄」と評価していただいているのを、僕はとても誇らしく思っています。

〈佐々木〉
いまはスポーツに力を入れている私立の学校が優勢ですけれども、平岡先生は公立の大津高校で全国屈指の強豪チームをつくり、これまでに50人近くものプロ選手を輩出してこられましたね。どのようにして選手を集め、育てていらっしゃるのでしょうか。

〈平岡〉
僕は3Aと言うんですけど、まず子供たちに安心、安全、安定を提供することが大事だと思います。恐怖や不安があるような所に子供たちは集まってきません。

先ほど申し上げたように、指導者は子供たちの未来に触れているという自覚をもとに、彼らが積極的にチャレンジできる環境をつくることが大前提になると思います。

大津高校の先生方は皆さんサッカー部のファンでいらっしゃって、「大津高校サッカー部の何がすごいんですか?」と聞くと、大会で勝ったとか、何人Jリーガーになったとかじゃなく、「誰も辞めないというのが一番すごい」とおっしゃるんです。

〈佐々木〉
確かにすごいことです。

〈平岡〉
それは先生方と僕たちサッカー部のスタッフが、子供たちの未来に触れていることを自覚して真剣に向き合っているからです。卒業後の進路についても100%責任を持って面倒を見ていますが、そうした努力によって安心、安全、安定の3Aが備わった環境をつくることができるんです。

ただ、うちは公立高校ですから選手のスカウトはできません。ですから僕は、広告を出さなくても行列のできるラーメン屋を目指してきたんですよ。つまり、練習参加をフリーにして、1回でも参加したら、「大津高校でなきゃダメだ」と思わせるような練習をしているんです。

 * * * * *

僕が15歳の時に帝京高校への進学を決断したのは、ここに来れば俺のサッカー人生は変わると確信したからです。大津高校の練習に参加した子たちも、同じような思いを抱いて入部してくるんです。

この夏も、延べ200人以上の子が参加してくれましたし、サッカー関係者以外にも多くの方が来られます。会社の上司が部下を連れてきたり、近くの小学校の子たちが総合学習で見学に来てくれたりするんですが、僕たちの練習を見たら皆元気になるというんです。

〈佐々木〉
どのような練習をなさっているのですか。

〈平岡〉
うちの練習は100分間で、すべてのセッションが一つのストーリーで成り立っています。

「きょうもあっと言う間の100分だったな」と声が上がるような練習を心がけていますし、土日には必ずゲームを行って、「あの練習があったからきょうの成功に繋がったんだな」「あれをもう少しちゃんとやっておけば、きょうのミスは防げたな」と、各人の課題発見、課題解決を促すんです。

ただのやらされる練習から主体的に参加する練習へと促していくことで、自ら工夫、努力して、夢中になる空間を提供できると思うんです。

〈佐々木〉
選手を夢中にさせる。

〈平岡〉
夢中にならないと、変化の先の進化には辿り着けませんからね。

僕がこれまで出会った名指導者の方々は、どなたも選手を夢中にさせるのが上手でした。選手たちが在学する1000日間で「きょうも一日頑張るぞ」「あれ、もう100分終わっちゃった」「早く明日が来ないかな」という毎日をデザインすることが一番の理想だと思うんです。

目指すゴールのない者に進む道はない

〈佐々木〉
いいことを教えられる指導者はたくさんいますけど、平岡先生のように育てられる指導者はそんなにいないと思うんです。

いくらいいことをたくさん知っていても、生徒の意識と意欲を変えて、それをやらせ切らなければ意味がありません。選手の自主性を尊重することはもちろん大事ですが、それを引き出すために時に強制が必要なこともある。両方のバランスをうまく取りながら生徒を導く大切さを実感しています。

私は生徒たちの自主性を引き出すために、オリジナルの手帳もつくって活用しているんです。

〈平岡〉
それはどんな手帳ですか。

〈佐々木〉
「花巻東の教え」「花巻東の考え」「チームビジョン」など、野球部全員で共有すべきことから、各々の期末テストの目標点数、人生百年の目標まで書き込めるようになっています。野球を辞めてからも社会でしっかりやっていける人間になるために必要なことを一冊で学べるようにしているんです。

明確な目標を設定して、そこから逆算して日々為すべきことを確認する。優先順位を決めて、やるべきこととやらないことを明らかにして、一日をどういう決意でスタートするのかを意識するために、毎朝30分時間を取って、その手帳に日誌を書かせているんです。

〈平岡〉
僕が20年来、ミーティングの冒頭で言ってきたのは「目指すゴールのない者に進む道はない」ということです。要するに、大津高校に入るところで終わりではなく、大津高校から始まる夢がすごく重要なんです。

ですから、一日一日をいかに過ごすかという「24時間のデザイン力」、夢に向かって休まずチャレンジし続ける「年中夢求」を説き続けているんです。先ほど申し上げたように、ただやらされる練習から、主体的に参加する練習に変えていくこと。もっとうまくなりたいと自ら努力や工夫を重ねて、そして夢中になること。

子供たちの「can not」を「can」に変える施策を、我われ大人たちが一枚岩になって取り組んでいるんです。


(本記事は月刊『致知』2019年12月号 特集「精進する」から一部を抜粋・編集したものです)

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◇平岡和徳(ひらおか・かずのり)
昭和40年熊本県生まれ。帝京高校、筑波大学時代にはサッカー部主将として全国大会で数々の好成績を残す。大学卒業後、地元・熊本で県立高校教師となり、熊本商業高等学校、大津高等学校をサッカーの強豪校に育てると共に、巻誠一郎選手など約50名のJリーガーを育成。平成27年から日本サッカー協会技術委員会に籍を置き、日本オリンピック委員会強化スタッフとなる。29年4月宇城市教育長に就任。著書に『凡事徹底』『年中夢求』(共に内外出版社)がある。
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◇佐々木洋(ささき・ひろし)
昭和50年岩手県生まれ。平成10年国士舘大学卒業後、大谷学園横浜隼人高等学校の硬式野球部コーチを経て、11年より花巻東高等学校勤務。バドミントン部、ソフトボール部の顧問を経て、14年硬式野球部監督に就任。甲子園出場を重ねる強豪校へと変革し、メジャーリーグで活躍する菊池雄星選手や大谷翔平選手ら、多数の有力選手を育てる。
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