女子バレー・荒木絵里香さんを支えた子育てへの思い【澤穂希×荒木絵里香】

2012年のロンドン五輪で主将として火の鳥NIPPONを牽引し、28年ぶりとなる悲願の銅メダル獲得に貢献した荒木絵里香さん。2014年一月に第一子を出産し、その僅か9か月後に現役復帰、バレーと子育てを良質させ、東京オリンピックの舞台にも立ちました。一方、2011年、主将として臨んだW杯ドイツ大会でなでしこジャパンを初の世界1へと導き、得点王とMVPに輝いた澤 穂希さん。2012年のロンドン五輪では銀メダルを獲得。2015年12月に現役引退、1年1か月後に第一子を出産し、仕事の傍ら子育てに奮闘しています。お2人はいま、どのようにして子育てに向き合っているのか。母としての思いを語っていただきました。

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出産5か月後にコートに立つ

〔澤〕
荒木さんとは何回かお目にかかっていますけど、子育てをしながら現役でプレーをされているのは、考えられないくらいすごいことだと思っているんです。しかも出産してから、現役復帰されたのもかなり早かったですよね。

〔荒木〕
2014年の1月に出産をして、その5か月後にはコートに立っていました。

〔澤〕
それだけ短期間で復帰したということは、やはり妊娠中でもトレーニングは可能な範囲で欠かさずされていたのでしょうか?

〔荒木〕
はい。それから出産後には夜泣きをする娘を抱っこしながらスクワットをしたり、娘が寝ている間にランニングに出たりと徐々にトレーニングを始めていきました。ただ、産後はトレーニングそのものより、むしろそのための時間を確保することのほうがよっぽど大変でしたね。

もちろん、そうした生活ができたのは家族のサポートがあってのことで、いまも基本的には私の母が娘の面倒を見てくれているんです。それに現役復帰にあたっては、主人がすごく後押しをしてくれたので心強かったですね。

〔澤〕
私も家族の協力があるからこそ、いまもこうして仕事ができているので、そのことにはすごく感謝しているんです。

何があっても子供が最優先

〔荒木〕
本当はすごく迷っていた時期があったんですよ。あれはちょうどロンドンオリンピック後のことで、まだまだ競技を続けたいと思う半面、結婚して子供もほしいという思いもあって、あれこれと考えた上で結婚を決めたんです。

実際に子供を授かってからはいろいろと大変でしたけど、ただ単に大変だけだったかというとそんなことはありませんでした。と言うのも、それまでバレーボールしか深く向き合うものがなかっただけに、子供という存在が身近にできたことで、不思議とバランスが取れるようになったという感じはありましたね。

〔澤〕
その感覚、すごくよく分かります。私も現役の時は自分中心の生活でしたけど、引退後は娘の誕生をきっかけに、子供が最優先で、何があっても子供が一番という考えに変わりました。自分でも驚いているんですけど、自分のすべてを犠牲にしても悔いはないと思えるほどの存在に出逢えたことっていうのは、本当にすごいことだと思っています。

うちの娘も2歳になってイヤイヤ期に入ったのか、何をやるにもとにかく全部「自分で、自分で」ってなっているんですよ。靴下一つ履くにしても自分でやるって聞かないんですけど、仕事でもう行かなきゃいけない時なんかは本当に手が焼けます。

それでも娘が困らないようにとか、嫌な思いをさせないようにと娘のことを常に考えている自分がいて、これっていうのは守るべきものができたからなんだなって思うんですよ。

娘と一緒に成長していく幸せ

〔荒木〕
子育てをしていく中ではそれまで自分が出逢ったことのないような気持ち、新しい発見や喜びを感じることが日々たくさんあります。

例えば、子どもを授かるまではゆっくり外を散歩することもなく、バレーボールは室内競技なので天気を気にすることもありませんでした。クリスマスやハロウィン、雛祭りなどには見向きもせず、がむしゃらに走り続けていたんです。

でもいまは、明日の天気や季節のイベントが、娘を通して自分の生活の中に入ってくる。人との出逢いもそうで、娘のお友達のママさんをはじめ、バレーボール一筋だった頃にはお会いできなかった方々と知り合うことができる。そういうことを娘と一緒に楽しめるのはすごく幸せだなと思っています。

〔澤〕
本当にそうですよね。うちの娘もいろんな言葉を喋れるようになってきて、昨日言えなかったことが今日になって言えたり、そうしたちょっとした変化にも私はすごく喜びを感じます。

つい最近も、あるアニメキャラクターのショーを見に行って、その時にステージに上がってみんなで踊る機会がありました。それまでは娘に「行っておいで」と言っても絶対に「嫌だ、行かない」と言っていたんですけど、その時初めて、自分で「行く」と言って、1人でステージに上がって、他のお友達と一緒に踊って、戻ってきたんです。

その姿を目の当たりにして、涙が溢れてきて思わずギューって抱きしめちゃいました。大人からすれば当たり前のことかもしれませんが、私にとっては娘の成長を感じた瞬間だったんです。本当に嬉しくて、しばらく1人で泣いていました(笑)。

〔荒木〕
いまの話で思い出したのは、少し前に娘と双六ゲームをやっていて、何かがぶつかった拍子にボードの上がぐちゃぐちゃになっちゃったんです。

私は急いでいたので、「もうやめよう」って言ったら、娘が泣きながら怒って、「なんで途中でやめるの。ママは途中で試合やめないでしょ。最後まで諦めないでやろう」って。思わずハッとして再開したんですけど、私が一所懸命バレーボールをやっている姿を娘は見てくれているんだなと思うと嬉しかったですね。


(本記事は『致知別冊「母」』〔2019年6月発行〕から一部抜粋・編集したものです

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