心・技・体が揃った最強の柔道選手をどう育てるか——井上康生×村井温

2021年、日本中を感動の渦に巻き込んだ東京オリンピック。中でも初日から立て続けに金メダルを獲得し、全4階級を制覇している全日本柔道男子の闘いが大きな注目を集めています。代表監督として全階級金メダルを目指してきた井上康生さんに、心技体の三拍子が揃った「最強」の選手を育てる取り組みについて、ALSOK会長兼CEOの村井温さんと語り合っていただきました。
(本記事は月刊『致知』2018年9月号「内発力」から一部抜粋・編集したものです。)

全階級で金メダルを目指す

〈村井〉
リオオリンピックでの課題を踏まえて、2020年の東京オリンピックに向けて、いまはどのような指導をされていますか。

〈井上〉
選手一人ひとりと話し合ってみると、皆金メダルを取りたいと言うのです。ですから、私は監督としてまずその思いを信じてあげたい。信じてあげることによって、選手との信頼も生まれてくるのではないかと思っています。

〈村井〉
まず選手を信じる。

〈井上〉
その中で日本人が世界で戦っていくための技術力、それを支えるフィジカル面の強化も必要になってきますし、また、4年に1度のオリンピックは戦う場である半面、お祭り的要素も非常にあります。勤勉で実直な日本人の性格には当てはまらないケースが結構あると思いますので、メンタル面のサポートをどうしていくかも考えていかなくてはなりません。

さらに、ただ単に強いというだけでは世界で勝っていけませんから、効率性、科学的な力も借りながら、細部の要素、技術をしっかり埋め、いかに隙なく緻密に戦っていける選手を育成していくかということも大事にしています。

〈村井〉
やらなくてはならないことがたくさんあると。日本の柔道はいま世界のJUDOとしてどんどん変化しているそうですね。

〈井上〉
そうです。

いま200の国と地域が国際柔道連盟に加入していますので、世界中のあらゆる所で柔道が行われています。それぞれの国の格闘技文化、技術を柔道の文化にものすごく入れ込んできていて、もはやJUDOは世界中の格闘技の複合体になっている部分が非常に見受けられるのです。

私たち柔道のプロフェッショナルな人間が見ていても、分からないような技も多く見られます。

しかし、従来の柔道の技に当てはまるかどうかは別にして、いまのルールに違反しない形でうまく入れ込んできていますので、我われもJUDOの流れをしっかり読み取り、研究、分析をしていかなければ、今後世界で勝っていくことはできなくなると思います。

〈村井〉
いま井上さんが特に注目している日本人選手はいますか。

〈井上〉
階級ごとに面白い選手は育っていて、選考でもこっちを出したい、あっちを出したいと悩めるくらいの選手層になってきてはいます。

では、いま日本男子柔道界のストロングカテゴリーはどこかというと、やはり60キロ級、66キロ級、73キロ級といった軽い階級で、近年のデータを見ても金メダルを獲得できる確率は高いと思います。また、重量級では、2世の世代に期待できる選手が非常に増えてきています。

〈村井〉
2世の選手ですか。

〈井上〉
例えば、1992年のバルセロナオリンピックで銀メダルを獲得された小川直也さんの息子さん。今年世界選手権の代表に決定したんですが、190センチ以上、体重150キロくらいあります。

それから、斎藤仁さんの息子さんはまだ高校生なのですが、同じく190センチ以上、150キロくらいあって、久しぶりに怪物といえるような選手です。柔道界でこれまで2世でオリンピックのチャンピオンになった選手はいませんので、2人の今後が楽しみです。

(本記事は月刊『致知』2018年9月号「内発力」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇村井温(むらい・あつし)

昭和18年大阪府生まれ。41年東京大学卒業後、警察庁入庁。富山県、熊本県、福岡県警察本部長、中部管区警察局長などを歴任し、平成8年退官。預金保険機構理事を経て10ALSOK副社長、13年社長などを経て24年より現職。

◇井上康生(いのうえ・こうせい)

昭和53年宮崎県生まれ。平成9年東海大学入学。11年バーミンガム世界選手権大会100キロ級優勝を皮切りに、12年シドニーオリンピック柔道100キロ級金メダル、13年全日本選手権大会100キロ級で優勝し、3冠王者に輝く。同年東海大学卒業。東海大学大学院体育学研究学科体育学専攻修士課程修了後、ALSOK入社。20年現役引退。東海大学柔道部副監督などを経て、2411月より全日本柔道男子代表監督に就任。リオオリンピックで史上初の全7階級メダル獲得を達成。

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