手塚治虫も住んだ漫画の聖地「トキワ荘」に学ぶ地域活性化のヒント

漫画の〝聖地〟の一つとして知られているのが、東京都豊島区にあった「トキワ荘」です。1950年代後半、新進気鋭の手塚治虫らが、この2階建ての木造アパートでペンを握り、多くの作品を生み出していました。そのアパートがいま、ミュージアムとして復活しようとしています。プロジェクトを進めている地元商店街のメンバーの一人、小出幹雄さんが地域活性化への思いを語ります。※情報は2019年当時のものです

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トキワ荘の存在を伝える使命がある

手塚治虫をはじめ、寺田ヒロオ、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら漫画史に燦然(さんぜん)と輝く巨匠たちが、若き日々を過ごした木造アパート「トキワ荘」の復元工事が1月から本格的に始まりました。

建設地は、かつてトキワ荘があった住宅密集地から200メートルほど離れた、東京都豊島区南長崎(旧・椎名町)にある区立南長崎花咲公園の一角です。私が父から継承し営んでいる、1954年創業の小さな時計店「スエヒロ堂」の隣にあたります。

事業主体の豊島区の計画によると、ここにトキワ荘を忠実に再現したアパートを建て、先生方が寝る間も惜しんで漫画を描き続けた四畳半の9部屋を蘇らせる他、ライブラリーや展示室を備え、「マンガの聖地としまミュージアム」(仮称)として来年3月にオープンする予定です。

私は、この町に生まれ育った一人として、トキワ荘の存在を後世にお伝えしていかなくてはいけないとの思いから、この10数年、商店街や町会の仲間らと共に、トキワ荘の漫画文化の継承活動に携わってきました。

この目で見た往時のトキワ荘

トキワ荘の歴史は、1952年に始まります。12月に上棟式が行われ、翌年に手塚治虫が月刊『漫画少年』(学童社刊)編集部の紹介によって入居。以降、同誌へ投稿する若手漫画家が続々と集まってきたそうです。

その後、売れっ子になった漫画家たちは1962年頃までに次々とアパートから巣立っていったのですが、ここからは手塚作『ジャングル大帝』など多くの名作が誕生したことから伝説となりました。

私が生まれたのは1958年ですから、先生方との交流があったわけではありません。それでも、家業の時計店では一時期、従業員用にトキワ荘2階の一室を借りていたこともあり、中高校生の頃までは何度か訪ねています。当時の薄暗い雰囲気は、いまでも懐かしく思い出されます。

残念なことにトキワ荘は老朽化し、1982年に解体されてしまいました。その前年、トキワ荘に縁のあった漫画家たちが20年近い時を経てアパートの一室に集まり、昔話に花を咲かせました。

今日であれば有形文化財として保存されているに違いありませんが、当時はまだ漫画・アニメの文化的価値がそれほど評価されていなかったということでしょう。その後、跡地には新しいアパートが建てられ、現在は出版社の綺麗なビルが建っています。

一歩ずつの積み重ねが成し遂げたプロジェクト

地元ではトキワ荘の存在を忘れ去ったわけではありません。ミュージアム構想は20年前から芽生えていたのです。

時間はかかりましたが2007年、トキワ荘跡地へ続く私道入口に、地元の目白通り二又商店会と南長崎ニコニコ商店街が共同で誘導看板を取りつけました。

看板は小さなものですが、ミュージアム実現に向けて大きな一歩となりました。その年の12月には高野之夫豊島区長に対し、地元から記念碑の設置要望書を提出。記念碑設置実行委員会を発足させ、2009年に「トキワ荘のヒーローたち」と名づけた記念碑を南長崎花咲公園に設置することができました。

続いて2011年には、商店街や町会、行政など約50名で構成した「トキワ荘通り協働プロジェクト協議会」を発足。翌年にはトキワ荘跡地にモニュメントが完成、さらに2013年には観光案内や展示機能を備えた「豊島区トキワ荘通りお休み処」を商店街の旧・米店を活用して開設するに至りました。

こうした、一歩ずつの積み重ねの上で、ようやくトキワ荘をモチーフとしたミュージアム構想が実現することになったのです。ミュージアムは、町に活力を呼び戻すきっかけとなるに違いありません。


(本記事は月刊『致知』2019年3月号 「致知随想」より一部抜粋したものです)

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◇小出幹雄(こいで・みきお)
昭和33年、東京都豊島区生まれ。大学卒業後、会社勤めを経て家業の時計店・スエヒロ堂を継承し、商店会や町内会などの地域活動に参加。平成20年よりトキワ荘記念碑設置実行委員会、トキワ荘通り協働プロジェクトの事務局長を歴任。現在、としま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会の広報担当。

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