稲盛和夫氏が説いた〝命〟の使い道

京セラやKDDIを創業し、それぞれ1.5兆円、4.9兆円を超える大企業に育て上げ、経営破綻したJALを僅か2年8か月で再上場へと導いた稲盛和夫さん。まさに人生を経営に懸けてきた稲盛さんが「人は何のために生きるのか」をテーマに、致知出版社主催の講演会で語られた貴重なお話を抜粋してお届けします。

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せっかく生を受けたのだから

〈稲盛〉
この我々の自然界には、微生物から動植物まで、たくさんの生物が存在しています。そして、それらはすべて循環をしております。

例えば、地中にはいろいろなバクテリアや細菌がいて植物の根の成長を助け、それによって地上に草が繁茂します。すると、そこに草を蝕む昆虫類がたくさん群がってきます。これらの昆虫は、昆虫同士で食べたり食べられたりして生存をしています。

また、草食動物も草を食べます。そして今度は、その草食動物を肉食動物が食べて命を永らえていきます。肉食動物は老いて朽ち果てると、また土へ帰っていき、それが土壌を豊かにし、そこにまた新しい草花や木が生えるようになります。

このように自然界は循環をしているのですが、それは同時に、命の連鎖が続いていることを意味しています。自然界のあらゆるものは生命の鎖でつながっているのです。

草は昆虫に蝕まれて昆虫を育て、また草は草食動物に食べられて草食動物を繁栄させます。草食動物は肉食動物に食べられて、肉食動物の繁栄を支えている。その肉食動物も、やがて死を迎えるとバクテリアによって分解され、植物の栄養となるのです。

自然界はそういう命の連鎖でつながって維持されています。つまり、これらの一般の生物たちは、自分が生きるだけではなくて、自分の命を差し替えて他の命を助けているのです。そのような循環が、この地球上では延々と行われてきております。

我々人間は大変素晴らしい知恵を神から授かっています。素晴らしい頭脳を駆使して近代科学を発展させ、素晴らしい文明社会をつくってまいりました。知恵によってあらゆる生物の頂点に位し、地球上にあるあらゆる生物を食べて生き永らえ、繁栄を図ってきました。

見方を変えますと、一般の動植物は自分の命を差し出して他の生き物を助けてあげていますが、我々人間は、植物でも動物でもすべてのものを殺して生き永らえて繁栄を続けているのです。そうやって生物の頂点に位し、それぞれの人生を生きているのが我々人類の姿であります。

そう考えると、私にはこういう思いが湧いてくるのです。

人間は素晴らしい知恵を持つと同時に、素晴らしい理性とか良心というものを持っているではないか。ならば、すべての命を収奪して生きるだけではなく、理性とか良心の領域を使って、他のものたちに対して何か施しをすることも考える必要があるのではないだろうか。

せっかくこの世に生を受けたのですから、命のある限り自分だけが生きるというのではなくて、我々人間も世のため人のために少しでも尽くして生きるべきではないのか。わずかでもいいから、世のため人のために尽くす生き方が人間として大変大事なのではないか。そこに、この人生を生きていく意義があるのではないかと思うのです。

つまり、私たちは何のために生きるのかといえば、その第一の目的は、世のため人のためにささやかでもいいから尽くすことであると私は思っているのです。


(本記事は月刊『致知』2006年6月号 特集「開物成務」から一部抜粋・編集したものです)

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

2022年8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

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◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書に『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』(いずれも致知出版社)など。

稲盛和夫さんからいただいたメッセージ

月刊『致知』創刊40周年、おめでとうございます。日本人の精神的拠り所として、長きにわたり多大な役割を果たしてこられたことに、心から敬意を表します。

『致知』は、創刊以来、人間の善き心、美しき心をテーマとする編集方針を貫いてこられました。近年、その真摯な姿勢に共鳴する読者が次第に増えてきたとお聞きしています。それは、私が取り組んでまいりました日本航空の再生にも似て、まさに心の面からの社会改革といえようかと思います。

今後もぜひ良書の刊行を通じ、人々の良心に火を灯し、社会の健全な発展に資するという、出版界の王道を歩み続けていただきますよう祈念申し上げます。

――京セラ名誉会長・日本航空名誉顧問 稲盛和夫

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