永世棋聖 故・米長邦雄が気づいた「幸運の女神が好む2通りの人間」

日本将棋連盟会長という立場で、組織の変革や普及活動に加え、人間の一生を左右する「運」の研究にも力を注いだ故・米長邦雄氏。激しく揺れ動く世界経済の中で日本をリードする大和証券グループ本社(現・名誉顧問)を務める鈴木茂晴氏と「運をつかむ人」の生き方を語り合う中で、幸運の女神が好む人間と、逆に忌避される人間の違いについて、実感をこめて言及されていました。(本記事は月刊『致知』2010年3月号 特集「運をつかむ」より一部を抜粋・編集したものです)

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運は実力「そのもの」である

〈米長〉
……前略) いまのお話で思い出しましたが、僕は中学1年の時に師匠・佐瀬勇次に弟子入りしたんです。師匠は棋界で30番目くらいの人でしたけれども、僕に将棋を教えようとされた。ところが内弟子の僕は

「お断りします。僕は大山康晴や升田幸三を追い越して日本一になりたいんです。先生に教わると、先生の実力で止まってしまう」

と答えたのですね。

拳固が飛んできましたが、お話を聞きながら自分は正しかったんだと改めて思いました(笑)。

〈鈴木〉
ああ、そういうことがあったんですね(笑)。

〈米長〉
それだけ指導者の役割は大事だということでしょうね。お話のように一流になる人は、優れた人物に会う数が多い。いろいろな人に可愛がってもらい、よい影響を受けて人間を練り上げていくから偉くなるんです。

  〔略〕

若い頃はどういう心構えで仕事をされていましたか。

〈鈴木〉
私は決して一番ではなかったんです。私より優れたセールスマン、頭のいい社員は山ほどいましたが、そういう人たちが必ずしも上に立ったわけではない。
 
そうですね。若い人たちのために何か参考になるとしたら、自分の上に立つ人のすることをよく見たほうがいいと思います。

例えば営業員の場合、年次や役職によって目標が課せられます。その時、自分の目標だけを追いかけてもまず達成できません。上司の目標以上はやろうと思わないと、自分の目標は果たせないんです。これは不思議ですね。
 
それから、目標数字を果たすために、あらゆるお客様の所を苦しんで駆けずり回るでしょう。そうやって必死に頑張って達成すると、次の月はとても楽なんですね。多くの人に会って、見込みもいっぱいできているわけですから。

ところが、お客様を回ってもいないのに、たまたま大きな契約が取れて、その月の目標は達成したとする。そうすると、次の月にとても苦しむことになります。
 
ですから、運というのは闇雲に下りてくるものではありませんね。見る目を持って一所懸命努力している人のところにしか訪れてこないということです。何もしていない人のところにはやってこない。これははっきりしています。運は実力そのものなんです。
 
もう一つは、運は人が持ってきてくれるんですね。だから、人との関係はとても大切にしておかねばならないと思います。

私はよく「実力より評判だよ」と言うのですが、いくら実力があっても評判が立たなくては運はつきません。反対に実力はそれほどでなくても、評判が立ったら自分がそれに追いつかざるを得ない。そうして皆の期待に応えようと努力していく中で運をつかんでいくわけです。

運をつかむ人の共通点

〈米長〉
運そのものが実力というお話、まったくその通りだと思って聞かせていただきました。やはり人生も将棋も実力で決まる世界ではあるのですが、僕はそれに加えて運を良くするのは、いくつかの要素があると思うんです。その一つが笑うことです。

〈鈴木〉
いいですね。物事をポジティブに考える。

〈米長〉
次には謙虚であること。幸運の女神は謙虚さを好みます。反対に自分を絶対だと信じて人を見下すような人、あるいは他人と自分を比較して妬む、そねむ、ひがむ、恨む、憎むといった感情を露わにする人。そういう人から運は逃げていくんです。

それに加えて運をよくするのに非常に大切なのは、運のいい人とだけお付き合いをして、運の悪い人と付き合うのをやめることでしょう。

運というのは、例えば社長と部長を比較して、立場が上の社長のほうが運がいい、ということではないんですね。肩書、名誉、財産、そういうものではありません。

運の悪い人は少し話せば分かりますよ。人の悪口ばかり言っているとか、誰かを恨んでいるとか、そんな人とは付き合わないことです。さらに申し上げると、運の悪い人とは喧嘩をしたほうがいい。

〈鈴木〉
ああ、それは分かります。

〈米長〉
なんでそんなことを思ったかといいますと、例えば自分の持っている株が値上がりしたとします。これは運がいいわけです。これからこの株が値下がりすると思えば売って現金に換える。それができないなら安売りする。これが喧嘩、ということです。

〈鈴木〉
一方でこういう見方もできるのではないですか。ついている人の周りにはついている人しか集まってこない、と。

幸いなことに、私の周りには運の悪い人がいないんですね。だいたい世の中で社長と呼ばれている人に「あなたは運がいいですか」と聞いてみると、ほとんどが「運がいい」と答えると思います。

ただ、米長さんがおっしゃるように、社会的に成功した人と人生で成功した人というのは別ですからね。僕はよく社員に言っています。「会社で偉くならなくてもいんだぞ。家族仲良く生活して、休日にボランティアに精を出す人生があってもいいじゃないか。一番大事なのは人生で成功することだよ」と。

〈米長〉
確かに人生の成功と幸せというのは、ほぼイコールになっていますからね。

僕は逆に貧乏神もいるような気がするんです。ついている人の周りについている人が現れるように、貧乏神の周りには貧乏神が好きな人たちが集まってくる。

〈鈴木〉
それは先ほど米長さんがおっしゃった不平不満や愚痴ばかり言う人。それから何かあるとすぐにネガティブに考える人がそうですね。駄目でもないのに、自分で駄目だと思い込んでしまう。そういう社員とは話していてもおもしろくないですよ。

会社に不満があることはよく分かります。仲間うちで飲みながら話す分には私はいいと思う。しかし、会社の悪口をよその会社に行って喋る。これは大人の世界では失格ですね。「ああ、こいつは心の弱い人間だ」とすぐに見破られてしまう。そういう人間には運もやってきません。

*   *  *  *  *

運に恵まれるか恵まれないかの差は、つまるところ心の姿勢で決まるということでしょう。お二人のお話を真摯に受け止め、自分の人生に活かしたいものです。


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数多の手練れが鎬を削る将棋界。羽生善治氏をはじめ、多士済々の同世代と応酬を交わしてきた先崎学九段は平成29年、47歳の時、突然の病に苦しめられたが、見事復帰を果たした。勝負師として名を馳せた師・米長邦雄永世棋聖の教えを交え、人生の浮き沈みに処する心得を伺う。

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◇鈴木茂晴(すずき・しげはる)
昭和22年京都府生まれ。46年慶應義塾大学経済学部卒業。同年大和証券に入社。米国留学を経て平成3年に引受第一部長、9年に取締役。10年に常務取締役、インベストメント・バンキング本部を担当。11年グループ本社の常務取締役に。14年大和証券SMBCの専務取締役として投資銀行部門を統括。16年大和証券グループ本社取締役兼執行役社長に就任。

◇米長邦雄(よねなが・くにお)
昭和18年山梨県生まれ。中央大学中退。13歳で佐瀬勇次名誉9段に入門。38年将棋のプロ棋士となり、54年9段。史上4人目の千勝棋士。60年永世棋聖。平成17年から日本将棋連盟会長を務める。著書に『六十歳以後 植福の生き方』(海竜社)『癌ノート』(ワニブックス)など多数。平成24年逝去。

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