父・平澤興の思い出

人間の生き方を深く探究した先哲の一人に
京都大学総長を務めた脳神経解剖学の
世界的権威・平澤興先生がいらっしゃいます。

『致知』1月号では、平澤先生についての思い出を
ご子息の裕さんが語られています。
平澤先生は、どのような家庭人だったのでしょうか。

平澤 裕(平澤興先生ご子息)
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※『致知』2018年1月号
※連載「致知随想」P85

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父・平澤興が88歳で亡くなり早28年。
4半世紀以上の歳月を経たいまもなお、数々の著作や
講話録をとおして多くの人たちに生きる力を与え続けていることに、
息子として深い尊敬の念を禁じ得ません。



今年75歳を迎えましたが、
父の達した年齢に近づけば近づくほど、その偉大さを実感するばかりです。

私は昭和17年、4男5女の9人きょうだいの末っ子に生まれました。
大学を卒業し東京の会社に就職するまでの22年間と、
32歳で結婚してから父が他界するまでの14年間をともに暮らしていたため、
きょうだいの中で最も長く身近に接し、薫陶を受けてきたといえるでしょう。

京都大学総長を務め、脳神経解剖学の世界的権威として知られる父ですが、
多忙な中でも子供たちと接する時間を見つけ、細かいことにこだわらず、
各々の個性を伸ばすように育ててくれました。

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高校時代、私は勉強そっちのけでラグビーに打ち込んでいました。
一年生の夏休み前、父からクラブ活動をやめて
医者になるための勉強をするように言われたことがあります。
しかし、当時の私は父の戒めを聞き入れず、大学でもラグビーを続けました。

巷では、京都大学の総長の息子が勉強しないでラグビーばかりやっていると揶揄され、
父もさぞ心苦しかったと思いますが、
それ以降、医者になれとは二度と口にしませんでした。

むしろ大学3年生の時に出場した第1回日本ラグビーフットボール選手権大会で、
八幡製鉄や近鉄といった強豪社会人チームを下し、
我われ同志社大学が日本一に輝くと、
そこまで熱心にやるのならと応援してくれるようになり、
講演などでも私の活躍ぶりを話していたそうです。

いま振り返ると、父の期待に反してやりたいことばかりやっていた自分は
何と親不孝者だったかと恥じ入るばかりですが、
子供の意思や個性を尊重してくれたことは感謝しても感謝しきれません。

もう一つ、いまも決して忘れられない父との思い出があります。
小学校3年生の時、給食費として母から預かったお金を黙って使い、
お菓子を買ってしまったことがありました。
そのことが母に見つかった日の夜、私は父の部屋に一人呼び出されました。

「悪事を働くな。卑怯なことはするな。
もしお金が欲しいんだったらちゃんと言いなさい」
と懇々と説き諭した後、何とたくさんのお菓子を与えてくれたのです。

単なる説教だけだったら、ここまで鮮明に私の心に刻まれることはなかったでしょう。
飴と鞭の如き父の慈愛に満ちた粋な計らいに、
もう絶対に同じ過ちは繰り返すまいと、固く誓いました。

父から学んだことは数え切れないほどありますが、
その最たるものは何かと言えば、……

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