ドラマや映画の陰にこの人あり。フードコーディネーター・住川啓子さんの流儀

レシピ本の料理撮影に加えて、ドラマや映画の食事シーンまで幅広く手掛けるフードコーディネーターの草分け的存在の住川啓子さん。これまでに手掛けたシーンは実に500本を超えているといいます。そんな住川さんの仕事のモットーは「いつも200%の仕事」をすること。その並々ならぬ情熱の源泉に迫るインタビューをお届けします。

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実績はお金では買えない

〈住川〉
28歳で子供を産んだ時から、仕事を減らして家にいる時間を多くとるようにしていたんですけど、このままだと自分がダメになるような気がして、子供が寝てくれる夜中にがむしゃらに勉強したり、好きなお花を始めたりしました。

お花以外にも何か講習会があれば申し込んで、とにかく自分の感性を磨き上げていくことに夢中でしたね。

そのうちフードコーディネーターという言葉が出始めて、コーディネーターという言葉を調べてみたら、幅広い知識や技術を持っている人とありました。私は料理ばかりでなく、テーブルセッティングもすごく好きだったし、お花のことも得意ですから、そうよ、私はこれがやりたいのよって。

それで29歳の時にラブニール国際K・Hカレッジという学校をつくって、フードコーディネーターの養成をしながら、私自身もその道で成功できたらって考えたんです。

――ご両親は何と。

〈住川〉
二人とも「やりたいことをやりなさい」と背中を押してくれました。特に父は喜んでくれましたね。娘が自分の口からそういうことを言えるようになったと。

私が一番影響を受けたのが、その父でした。父は実業家として、自分の好きなことを形にし続けてきた人で、私も一緒に小さかった学校を大きくしてきましたから。

ただ、それはあくまで経営者の娘の立場でやってきたことで、本当の苦労はしていなかったんです。ある時「あなた自身は何をやってきたの?」とおっしゃる方がいて、その時から住川啓子の名前で仕事を取るために頑張ってきたんです。

私がそうしてどんどん忙しくなっていくのを母が心配して、「そんなに無理しなくてもいいのよ」と言ってくれていたんですけど、父は

「実績はお金では買えない。やればやっただけおまえの実績になるんだ」

と強く後押しをしてくれました。そんな父のおかげで、私も迷うことなく前へ進むことができたんです。

できることを人の何倍もやってみせよう

――学校は順調でしたか。

〈住川〉
新しいコースを立ち上げて生徒さんを集める経験はたくさん積んでいたので、むしろ楽しくて仕方なかったですね。おかげさまでクラスもすぐいっぱいになりましたけど、もっと学校の知名度を上げなければと考えて、ドラマの仕事を受けるようになったんです。

学校の収入がありますから、最初の10年くらいは無償で承って、その代わり学校の名前をテロップで出していただくようにしました。それがだんだんプロデューサーの方たちに認めていただけるようになって、どんどんお声掛けいただくようになったんです。

ただそうなると、忙しくてだんだん寝る暇もなくなってしまうんですね。私はスタッフにいつも「時間はお金よ」って言うんですけど、それは本当に私自身の実感なんです。特にドラマの撮影って、いいものに仕上げるために皆が燃えると、朝までかかってしまうし。

――それは随分過酷ですね。

〈住川〉
最初の頃はすごく辛くて、なんでこんなに時間がないのって悲しくなったこともありました。

でも、なぜ自分がこれをやっているんだろうと突き詰めていくと、人の喜ぶ顔を見られるからなんですね。役者さんやクライアントが

「おいしいね」
「いいものに仕上げてくれたね」

って喜んでくださると、それまでの苦労は全部吹き飛んじゃうんですよね。

昔は役者さんって、お芝居で出される料理はほとんど口にしなかったんですが、「住川さんがつくった料理なら食べるわ」ってファンになってくださる方が増えてきて、いまでは「料理をつくってほしい」ってご自宅に招かれることもあるんです。

現場の皆さんには、私が料理をつくって出すところしか分かりませんけど、いいものをつくるにはいい材料が必要ですから、トマト一つ買うのにもお店を何軒も探し歩くし、撮影が終わったら片づけもあるし、トータルで見るとすごい労力を費やすわけですよ。

そうやって一所懸命打ち込んでいることが、伝わる方にはちゃんと伝わっているんだなと思うと、とてもありがたいし嬉しいですね。

――仕事をする上で特に心掛けてこられたことはありますか。

〈住川〉
私って話は下手だし、そんなに学もないし、すごくマイナス思考の人間なんですよ。でもマイナスの部分ばかり見せていたら仕事はいただけません。

だったら私にできることって何だろうというと、料理やフラワーデザイン、それからいろんなアイデアを出せることだったりするので、その得意な部分を普通の人の何倍もやってみせようと考えたんです。

100%の仕事では認めてもらえない。200%の仕事をしようって。


(本記事は月刊『致知』2017年5月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部を抜粋・編集したものです)

◉膨大な仕事を抱え、自らのマイナス思考を認めながら、だからこそ「できることを200%やろう」と心を奮い立たせてきた住川さん。その情熱溢れる仕事姿勢に鼓舞されます。

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◇住川啓子(すみかわ・けいこ)
東京都生まれ。短大卒業後、父親の経営する西東京調理師専門学校に入社。平成2年ラブニール国際K・Hカレッジを設立。フードコーディネーターとして活躍する傍ら、その養成にも尽力。㈲ラブニール社長、西東京調理師専門学校副校長、ドリンクマイスター協会事務局長など、多方面で活躍中。著書に『なる本 フードコーディネーター』(週刊住宅新聞社)などがある。

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