五木寛之氏 渾身のエッセイ

希代のベストセラー作家であり、90代のいまも精力的な執筆活動を続ける五木寛之氏。「千年の名言」は、作家として人間を深く見つめ続けてきた五木氏が、古今の名言に基づきながら、軽妙なタッチで人生観、死生観、健康観などを綴られる『致知』の好評エッセイです。

五木寛之氏が語る連載「千年の名言」への思い

「千年の名言」という言葉に、人はどのようなイメージを思い浮かべるのだろうか。

一般には、はるか過去の古典のなかで語られた言葉が、現代まで生き残って、私たちの胸に強く響くことを指すと考えるのが普通だろう。

しかし、偏屈者の私は千年の昔から人口に膾炙して、今なお輝きを失わない古典の言葉だけを〈名言〉とは考えない。いま、私たちの日常生活のなかで、日々、泡のように生まれ、消費され、消え去る言葉のなかにも、明日の千年を生きる名言があるのではないかと思うのだ。古式床しき過去の名言も貴重であり、同時に未来千年の明日に生き残る名言も大事だろう。

いま、まさに時の人である大谷翔平選手がWBCでの試合前に残した言葉なども、その一つではあるまいか。

「きょう一日は、彼ら(アメリカの名選手たち)を憧れるのはやめよう」

と、大谷翔平選手は言った。その言葉の背景には、東北で異国の野球に魅入いられた少年たちの過去の憧憬と、思いが深く影をおとしている。

その決断があったからこそ、決勝戦でアメリカ・チームに勝つことができたのだ。

たぶん、彼のその日の言葉は、千年のちまで名言として語りつがれるのではあるまいか。

「千年の名言」とは、古いから名言なのではない。名言だからこそ生き続けたのだ。

私たちの周囲には、日常の会話や、メディアをとおして、そのような言葉が無数にあふれている。その中から時代の変化に耐えて、後世に語りつがれる名言が誕生する。

この欄では、過去と現在とを問わず、時空を超えて今後も生き続けるような言葉、今を生きる名言をピックアップしていくつもりだ。

これまでこんな名言を紹介してきました

  • 2024年4月号 第1回

  • 2025年5月号 第14回

  • 2026年2月号 第23回

  • 2026年5月号 第26回


プロフィール

◇五木寛之(いつき・ひろゆき)
昭和7年福岡県生まれ。22年に朝鮮から引き揚げる。早稲田大学露文科中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞。以降、受賞歴多数。日本藝術院会員。

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