「本を読む喜び、楽しさ、感動を若い世代に伝えたい」という想いのもと、昨年に引き続き開催された『心に響く小さな5つの物語』第6回感想文コンクール。 おかげさまで、全国から318通ものご応募をいただきました。 選考結果をご案内いたします。たくさんのご応募をいただき、誠にありがとうございました。

受賞者

金賞 熊本県立熊本商業高等学校2年 塩塚まゆみさん

銀賞 横浜市立さちが丘小学校5年今村美愉さん

銅賞 東京都立新宿高等学校2年 杉本沙織さん

審査員総評

鈴木秀子先生(文学博士)

それぞれの子供たちが自分の体験と照らし合わせながら、物語の神髄をしっかり把握し、自分の生活に照らし合わせて、今後の指針としようとしているところに大きな感動をいただきました。

皆藤 章先生(臨床心理士)

感想文を通して、今年も若いひとたちのこころに触れさせていただきました。自分で自分を深く掘り下げるというのは、辛く苦しく、ほんとうに難しいことだと思いました。それでも、作品からは、何とかことばを紡ごうとする強い力を受け取ることができました。どうも、その力の源は「孤独」にあるように思えました。孤独にひとりであがいてもがいてこそ、ときには自分のこころが折れてしまうと感じても、かけがえのないひとに出会う縁が生まれてくるように思いました。

今野華都子先生(『はじめて読む人の「古事記」』著者)

この本を読んで感動したという主体的な言葉だけではなく、感動や涙が溢れるという心の作用を言葉にし具体的に示していました。言葉は事の端(は)、行動のきっかけです。自分に必要な言葉をこの本から受け取り思いを込めて明確に記し、人生を導く灯明を自分で点されたことが伝わりました。

受賞作品

塩塚まゆみさん

 あとがきを読み終えても、私は本を閉じることができなかった。表紙を開く前の眠気は散り、私は二度、三度とその本を読み返した。
 一冊の本に綴られた五つの物語は、どれも私の心を揺さぶり、強くひきつけた。
 第一話「夢を実現する」では、今の自分を省て「恥」を感じた。私は、将来の夢を見ることはしても、全力で突き進むことはしていなかった。そして、そんな自分を受け入れ、離し難く思う自分もいる。イチローのように努力し、成功した人物に憧れても、「自分には……」と諦めていることが恥ずかしく、惨めに思った。
 第二話「喜怒哀楽の人間学」で、私は「思いやる心」の大切さを感じた。札付きとなった少年に、亡き母の胸中を伝えた家政婦の思いやり。新たな母との仲を案じ、少年に憎まれることを選んだ実母の思いやり。母のその思いやりが、少年にとってどんなものだったかはわからない。しかし、少年の心を立て直したのは、母親の確かな愛だ。私は第三話を読む前に、涙が溢れて止まらなかった。
 目許を漏らしたまま読んだ第三話「人の心に光を灯す」。私はこの話を読んで、祖母の口癖を思い出した。祖父は言霊を信じ、事あるごとに「言葉には力が宿るんだよ」と言っていた。事実、祖母の言葉には不思議な力があった。悲しい時、辛い時、祖母と話すと元気になれた。それを見て、祖母はやさしく笑い、その笑顔が更に私を元気付けた。第三話を読み、祖母と過ごした時間を思い出し、心がぽかぽかと温かくなった。
 第四話「人生のテーマ」で、私は暫くあるページから目を離せなかった。十五歳の少年の詩だ。私はその詩を読み、胸が締め付けられたように苦しくなった。やっと止まった涙が一粒、また一粒と零れた。少年の十五年間生きて書いた結晶は、こんなにも眩しく美しいのに、私はどうだ。大きな心配もなくのうのうと過ごす日々。もし、今の私が詩を書いても、その輝きはきっと鈍く、くすんでいる。
 ついに最後の物語。湿った指で「縁を生かす」のぺージをめくった。そして、一気に最後まで飛んで、考えた。私は今までどんな縁を結び、どう生かしていただろう、と。考えたが、どうしても答えが詰まってしまった。
 私は本に、自分を見詰める機会や感動をいただいた。本当に、本を知るきっかけとなった縁に感謝が尽きない。本を閉じた私は、今後の人生はより真剣に生きて、輝きたいと思った。

今村美愉さん

 私には今、まだ夢がありません。なぜイチローが、私と同じ小学生時代に一流のプロ野球選手になりたいと思えたのか不思議でした。
 第一話では、夢を実現する上で大事なことを三つ語っています。第一に、夢に対して本気、本腰であること。第二に、自分の夢に対して代償を進んで支払おうとする気持ちが強いこと。第三に報恩の心を持っているということです。明確な夢がまだない今の自分と比べて、さらに二つの大事なことをイチローは小学生の時から持ち合わせていたと私は気づきました。第四に、仲間と共に取り組むということです。イチローは「去年の夏、僕たちは全国大会へ行きました」「僕たちは一年間負け知らずで」と「僕たちは」という言葉を使います。全国大会に出場するような激しい練習は一人ではできません。イチローは仲間とともに取り組み、全国大会へと進みました。イチローのすごいのは、全国大会で「ほとんどの選手を見てきましたが」とあるように敵やライバルですら、自分の夢の実現のために必要な出会いとしているところです。すべての出会いを縁として生かしているのだと思いました。第五に、数字で表すということです。イチローの文章には、「三百六十五日中三百六十日」「五、六時間」「一億円」「四試合」「ホームラン三本」「五割八分三厘」と数字がたくさん出てきます。数字で表せるようになってこそ本気なのだと思いました。
 第二話では、深い配乗について知りました。普通は厳しくされたり、怒られたら嫌になってしまいます。でも、それは自分の幸せを願い、自分のためにそうしてくれている厳しい優しさなのかもしれないと思うようになりました。第三話では、おかげさまという言葉の深さを知りました。おかげさまは、自分一人で何かをできているとごうまんになっている時には出てきません。感謝と謙そんの思いがおかげさまであり、良縁を作り、人生のお守りになるのでしょう。
 第四話、第五話を読み、出会った人を大切にし、縁を大切にしようと思いました。そのためには人を見た目で判断しないようにしようと思います。自分が不愉快な人と出会ってもその人も過去に病気や親が死ぬなどで苦しみ、おかしくなっているのかもしれません。縁という出会えた奇跡に感謝をし、自分から話しかけようと思います。人は一人で生きていけるのではなくて、みんなに助けられながら生きているし、自分も誰かを助けることができるのだと思います。

杉本沙織さん

 私はこれまで辛い思いを胸の奥に閉じ込めて生きてきた。ストレスが積み重なり心の奥は少し暗い日々であった。これらの話を読んで私は「このままではいけない」と思った。
 第一話。夢が叶うその時のために、激しい練習を重ねる。理想への道を考え、努力しているのは本当に凄いと思った。私は、いくら大きな夢があったとしても、臆病な部分があるからか、前を向くことができずにいた。夢に向かう勇気はとても大切だと痛感した。
 第二話はとても衝撃的だった。幼い頃に肉親を二人も亡くしてしまうのは、とても辛いことだと思う。私は現在父親は離婚してしまったので、いない。家事・仕事が殆ど母親の負担となっている。もし母親がこの負担に耐えられなくなってしまったらと考えさせられた。親が亡くなっていない私はまだ幸せだと思った。家族の大切さをこの話に教えられた。
 第三話。交通事故。私が中学の頃、同学年の男の子が自転車に乗っていたところ、車にひかれてしまったことを思い出した。肉親が亡くなることはとても悲しくても、最期の言葉によって、悲しい過去を持った彼女の生きる力になり、彼女を支える。とても感動的だった。誰かの言葉が、その人の心の助けとなったりする。温かいと感じた話だった。
 第四話。泣きそうになってしまった。重症を患っていることについて、母への申し訳なさや感謝が率直に書かれている詩である。私なら、病気を知った途端に、「なぜ自分がかかってしまったのだろう」と嘆いてしまうだろう。自分に辛い現実があっても、他人を想う気持ちがあるのはとても凄いと思った。
 第五話。少し微笑ましく思った。辛い思いをしている人を、他人の角度として先生が見ているため、先生の気持ちが忠実に書かれていたのを見て、私が学校の先生に相談した時も、このような気持ちが先生には少しでもあったのかもしれないと思った。心配してくれる人、心の拠り所となる人がいることは素晴らしいことだと改めて感じた。
 これらの物語は題名のように「心に響く物語」だと思った。人それぞれ辛い思いを経験しても、そこから前を向き歩き出すことができる。辛さを希望の糧にすることができる。私がこれから生きていく上で心にとどめ、できるようにならなければいけないことだと思う。いつまでも暗いままではいけない。これからの人生を少しでも輝かせるために、過去よりも今、未来を大事にして生きていきたい。

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