卒業式の日に生徒たちが涙した最後の授業

今年も卒業シーズンとなりました。褒められたり、怒られたり、励まされたり……様々な思い出を胸に抱いて、今年も多くの子供たちが人生の節目を迎えます。友だちと喧嘩したこともあったかもしれません。先生に怒られた日や、親とぶつかった日もあったでしょう。それでも友だちと仲良く遊んだ日々や先生や両親に励まされた日々は、その後の人生において大切な宝物として心に刻まれたはずです。そんな全国の子供たちの新たな門出を祝して、卒業式にまつわる感動実話をご紹介します。お話しいただいたのは、熊本県の高校で校長先生を務めた大畑誠也さん。教室中の生徒たちが思わず涙した大畑さんの「最後の授業」とは――。

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親の手を握ったことがあるか?

私が考える教育の究極の目的は「親に感謝、親を大切にする」です。高校生の多くはいままで自分一人の力で生きてきたように思っている。親が苦労して育ててくれたことを知らないんです。

これは天草東高時代から継続して行ったことですが、このことを教えるのに一番ふさわしい機会として、私は卒業式の日を選びました。

式の後、3年生と保護者を全員視聴覚室に集めて、私が最後の授業をするんです。そのためにはまず形から整えなくちゃいかんということで、後ろに立っている保護者を生徒の席に座らせ、生徒をその横に正座させる。そして全員に目を瞑らせてからこう話を切り出します。

「いままで、お父さん、お母さんにいろんなことをしてもらったり、心配をかけたりしただろう。それを思い出してみろ。交通事故に遭って入院した者もいれば、親子喧嘩をしたり、こんな飯は食えんとお母さんの弁当に文句を言った者もおる……」

そういう話をしているうちに涙を流す者が出てきます。

「おまえたちを高校へ行かせるために、ご両親は一所懸命働いて、その金ばたくさん使いなさったぞ。そういうことを考えたことがあったか。学校の先生にお世話になりましたと言う前に、まず親に感謝しろ」

そして

「心の底から親に迷惑を掛けた、苦労を掛けたと思う者は、いま、お父さんお母さんが隣におられるから、その手ば握ってみろ」

と言うわけです。すると1人、2人と繋いでいって、最後には全員が手を繋ぐ。

私はそれを確認した上で、こう声を張り上げます。

「その手がねぇ! 18年間おまえたちを育ててきた手だ。分かるか。……親の手をね、これまで握ったことがあったか?おまえたちが生まれた頃は、柔らかい手をしておられた。いま、ゴツゴツとした手をしておられるのは、おまえたちを育てるために大変な苦労してこられたからたい。それを忘れるな」

その上でさらに

「18年間振り返って、親に本当にすまんかった、心から感謝すると思う者は、いま一度強く手を握れ」

と言うと、あちこちから嗚咽が聞こえてくる。

私は「よし、目を開けろ。分かったや? 私が教えたかったのはここたい。親に感謝、親を大切にする授業、終わり」と言って部屋を出ていく。

振り返ると親と子が抱き合って涙を流しているんです。

子どもは大人の背中を見て育つ

人間として生まれて一番身近な、一番大切な存在って親じゃないですか。親は選べません。親も子は選べません。ならばそれをきちっと固めるしかないじゃないですか。

後漢の書に「孝は百行の本。衆善の始なり」とあります。

親孝行は諸々の行いのもとであり、諸々の善きことの始めである。昔よく言われた言葉をいまはすっかり忘れてしまっている。

結局、教育とは何なのかと突き詰めて考えてみると、それは自分自身の生き方であり、在り方ですよ。その生き方、在り方が生徒に反映していく。「大人の生き方、在り方=大人の教育力」ですね。子育ても同じでしょう。「親の生き方、在り方=親の子育て力」。

人生とは何なのか、人間はどういう生き方をすべきかという価値観をきちんと持っている、そういう人はきちんとした子育てをする。だから自分がどういう生き方をしているか。それを大人は常に自問しなければならないと思います。


(本記事は『致知』2011年1月号 特集「盛衰の原理」より、大畑誠也氏の「教育は感化なり」を一部抜粋・編集したものです)

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大畑誠也 (おおはた・せいや)
昭和22年熊本県生まれ。昭和47年熊本大学法文学部卒業後、高校の教員となる。県教育委員会を経て、平成7年天草東高等学校の校長に就任。その後、菊池高等学校、熊本商業高等学校、八代高等学校、第一高等学校、盲学校と熊本県内6校の校長を歴任。平成20年より現職。著書に 答は現場にあり(ぱるす出版)がある。

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