〈井村雅代×宇津木麗華〉まずは言葉で主張する。頂点に輝く選手とチームの共通項

 現在ハンガリー・ブダペストで開催中の世界水泳選手権。日本のアーティスティックスイミング界を牽引し、昨夏の東京オリンピックで勇退した名将・井村雅代さん〈写真左〉が指導するエース乾友紀子選手が見事、日本勢初の優勝を掴み取りました。
 世界を舞台に活躍する日本選手の姿は勇気を与えてくれます。井村さんを尊敬し、東京オリンピックで世界一に輝いた女子ソフトボール日本代表の監督を務めた宇津木麗華さん〈写真右〉と井村さんの白熱した対談をお届けします。

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乾友紀子選手も持つ強さの原点

〈宇津木〉
何かあった時、嫌だなと思ったら顔に出してとも伝えています。上野(由岐子)なんかは結構あるんですけど、言葉にならなくても「えっ」と態度で出してくれたら、私がちゃんと気づいて変えるようにしています。

〈井村〉
それはすごく大事ですね。日本人って変に我慢するでしょう? 納得していないのに何も言わずに黙って従う。

私は中国代表コーチとして戦っていた時、中国の選手たちがすごく大好きだったんです。なぜかといえば彼女たちは嫌なことは嫌とはっきりと主張するから。練習方法で意見が分かれた時には、彼女たちの主張と私の方法を両方試して、私のほうがいいと納得すると、その後はぐちぐち言わずに従いますよ。

〈宇津木〉
顔に出したり、意見を述べてくれれば、解決しますから。

〈井村〉
そう。一緒に考えられる。

私はいま、日本の絶対的エース・乾友紀子のソロのコーチを担当していますが、彼女も言葉に出してきちんと主張ができますね。

〈宇津木〉
私が2016年に全日本の監督に再就任した後、最初に行ったのも選手たちに発言させることでした。

ミーティングで私が話した後、「何かある?」と聞いても誰も何も言わない。皆喋れないんですね。そこで毎回テーマを決めて、自分の意見を2~5分で述べてもらう訓練をしていました。

その結果、東京オリンピック直前の合宿では私が質問した瞬間に皆が手を挙げるようになりました。「何のため、誰のためにソフトボールをやるのか」といった深いテーマについて共に語り合ったことで、お互いの気持ちがより一つになっていったと思います。

〈井村〉
私もこのコロナ禍で、ミーティングの重要性を感じました。新型コロナウイルスという前代未聞の危機が訪れ、誰も正解の分からない状況に陥りました。

その時に、選手たちの声を、不安を徹底的に聞いてあげ、そのマイナスな気持ちを取り除くことが私の役割だと思っていました。

最後は指導者が責任を負う

〈宇津木〉
選手の声を拾い上げることは骨が折れますが、本当に大事なことですよね。

私は練習への参加も選手の主体性に任せています。選手が練習に行きたくないと感じたら、自己責任で休ませることもあります。調子が悪いのに練習に来てズルズルと長引かせるより、一日しっかり休んで次の日から元気に練習できるほうが何倍もいい。

〈井村〉
麗華さん、全くその通りです。オフの日が何のためにあるのかといえば、前日よりも心身共にリフレッシュして、やる気に満ち溢れた状態で再び練習に臨むためです。

日本人は往々にして休んだら駄目になると思い込んで、休みの日にやらなくてもいい練習をするんです。そして疲れた体のままで練習に現れる。一人時間の練習はもちろん大切ですけど、自分の体力をきちんと把握した上でのオンとオフの使い分けが重要です。

でも、麗華さんのように選手の意見を聞き入れられるチームは稀ですよ。選手に意見を言わせず、上から指示するだけというのが日本のスポーツチームの現実です。

麗華さんが選手の意見を聞き入れられるのは、しっかり自分の指導に自信を持っているからです。

(宇津木)妙子さんもそうでしたし、私も自分ですべて責任を取るタイプですので、私たちは似た者同士で特殊な女性です(笑)。きょうここで共感し合っていることは、きっと世の中の一般認識とは異なっていると思います(笑)。


(本記事は月刊『致知』2022年4月号 特集「山上 山また山」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇井村雅代(いむら・まさよ)
昭和25年大阪府生まれ。中学時代よりシンクロナイズドスイミング(現・アーティスティックスイミング)を始める。選手時代は日本選手権で2度優勝し、ミュンヘン五輪の公開演技に出場。天理大学卒業後、大阪市内で教諭を務める傍ら、シンクロの指導にも従事。53年日本代表コーチに就任。平成18年より中国、イギリスの指導を経て、26年日本代表ヘッドコーチに復帰。28年リオ五輪ではデュエット、団体とも銅メダルを獲得。令和3年の東京五輪では4位入賞。五輪でのメダル獲得数は通算16個。著書に『井村雅代コーチの結果を出す力』(PHP研究所)など。

◇宇津木麗華(うつぎ・れいか)
中国名・任彦麗(ニン・エンリ)。昭和38年中国北京生まれ。女子ソフトボール中国代表チームでキャプテンを務めるも、18歳から宇津木妙子氏と交流を続けてきたことから、63年25歳の時に来日し、日立高崎入団。平成6年日本に帰化、宇津木麗華に改名。8年アトランタ五輪代表チーム入りするが、帰化問題から出場を取り消される。12年シドニー五輪では主砲として活躍し、銀メダル獲得に貢献。14年から監督を兼任。20年の北京五輪で悲願の金メダルを獲得。24年、26年の世界選手権で連覇。令和3年の東京五輪で金メダル獲得。

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