仕事にも人生にも締め切りがある——日本料理の鉄人・道場六三郎氏が10代で決意したこと

その人だけが生まれながらに天から与えられた能力を仕事や人生にどう生かすか――。片や日本料理、片やテニス、それぞれの道で一流プロとして活躍されてきた道場六三郎氏と松岡修造氏に、ご自身のご体験を交えながら語り合っていただきました。伝説の料理番組「料理の鉄人」で初代の和の鉄人として見事な腕前でお茶の間を魅了した道場六三郎氏。そんな道場氏が若い頃から心掛け実践されてきた仕事の極意とは?

◉誰の人生にも、よい時と苦しい時があり、その時々で心に響く言葉は違う。仕事にも人生にも、真剣に取り組む人たちの糧になる言葉を――月刊『致知』のエッセンスを毎日のメルマガに凝縮! 登録特典〝人間力を高める三つの秘伝〟も進呈しております。「人間力メルマガ」こちら

仕事にも人生にも締め切りがある

〈松岡〉
せっかくの機会ですから、道場さんの原点についてお聞きしたいのですが、そもそも料理の世界に入られたのはどういうきっかけですか?

〈道場〉
僕は子供の時から料理人になりたかったわけではないんです。ただ、父親が非常に料理好きで、漆の仕事をする傍ら、味噌や鰯の糠漬けなんかを嬉々としてつくっていました。その影響も多少あるのかもしれません。

17歳の時、近所の魚屋の親父さんが病気に罹ってしまい、手伝ってくれないかと言われましてね。威勢のよさに憧れて働き始めたのが最初のきっかけです。そこで魚を捌いて刺身にしたり串焼きにしたりしていたんですが、ある時、得意先の旅館のチーフから忠告を受けました。手に職をつけたほうがいいよと。料理人になれば食べるのに困らないだろうということもあって、料理の道に進むことを決め、ある人の紹介で東京の日本料理店で働くことになったんです。

〈松岡〉
それは何歳の時ですか?

〈道場〉
19歳の春です。母親は僕が東京に出て苛められたり、相手にされなかったりすることが一番心配だったんでしょう。

「六ちゃん、人に可愛がってもらいや」って言うんですよ。だから、あの当時はお風呂で先輩の背中を流したり、誰よりも早く店に来て先輩の白衣と靴を用意したり、ボロボロになった高下駄を修理したり、煮こぼれて汚れたガス台を夜通しピカピカに綺麗にしたりと、先輩に喜んでもらえる仕事は何でもやりました。

〈松岡〉
お母様の教えを実践されたのですね。

〈道場〉
僕の両親は浄土真宗の信仰に篤く、常日頃、人としての生き方を説いてくれました。いまでもよく覚えているのは、

「親や先生のいる前では真面目にやって、見ていないと手を抜く人がいるけど、とにかく神仏は全部見てござる。陰日向があってはいけない。どんな時も一所懸命やらなきゃいけないよ」とか「たとえ逆境の中にいても喜びはある」。

こういう教えは僕の財産であり、若い頃から仕事のベースになっています。

〈松岡〉
他に心掛けていたことはありますか?

〈道場〉
東京の店に入って心に決めたことは、

「人の2倍働く、人が3年かかって覚える仕事を1年で身につける」ということです。

例えば、人がネギを3本置いて切っていたら、その上に1本重ねて4本、2本重ねて5本で切れるようにする。最初はなかなかうまくできませんが、脇の締め具合や手首のスナップなどを工夫して、試行錯誤の末に自分だけの得意技を編み出したんです。

冷蔵庫の使い方一つにしても、工夫次第で差が出ます。先輩から「ちょっと、あれ取って」と言われた時に、冷蔵庫をパッと開けて、サッと食材を取り出して渡せるか。これをできずに「えっと、どこだっけ」なんてグズグズしていると、「バカ野郎」となってしまう。

そこで、冷蔵庫の中を六つに仕切って整理整頓し、どこに何が入っているかメモを取り、扉に貼っておく。さらに、量が少なくなったら小さな容器に移し替え、いつも冷蔵庫を広く使えるようにしていました。

〈松岡〉
ご自身で気づいて創意工夫されたことが素晴らしいですよね。

〈道場〉
それから、先輩のやっている仕事を見て、レシピを全部ノートに書き写したり、出汁巻き玉子をどれだけ早く綺麗につくれるか追求しようと、夜中に同僚が寝ている横で、濡れたタオルをフライパンの上に載せてそれを返す練習をしたりね。

僕は「仕事にも人生にも締め切りがある」とよく言うんですけど、ダラダラと仕事をしても上達しません。とにかく僕は若い頃から、今年は絶対にこの仕事を覚えるという目標を立てて努力しました。

◉「人間各自、その心の底には一個の天真を宿している」——国民教育の師父・森信三師の言です。人は皆、天からその人だけの真実を授かってこの世に生まれてくる、といいます。その天真を発揮して生きることこそ、人間の花を咲かせることに他なりません。片や日本料理、片やテニス、それぞれの道で花を咲かせてきた道場六三郎氏と松岡修造氏が語り合う、人間の花を咲かせる生き方とは。
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道場六三郎みちば・ろくさぶろう
昭和6年石川県生まれ。25年単身上京し、銀座の日本料理店「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出す。その後、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」でそれぞれ修業を重ね、34年「赤坂常盤家」でチーフとなる。46年銀座「ろくさん亭」を開店。平成5年より放送を開始したフジテレビ「料理の鉄人」では、初代「和の鉄人」として27勝3敗1引き分けの輝かしい成績を収める。12年銀座に「懐食みちば」を開店。17年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。19年旭日小綬章受章。著書に『「一本立ちできる男」はここが違う』(新講社)など多数。

松岡修造(まつおか・しゅうぞう)
昭和42年東京都生まれ。10歳から本格的にテニスを始め、慶應義塾高等学校2年生の時にテニスの名門校である福岡県の柳川高等学校に編入。その後、単身フロリダ州へ渡り、61年プロに転向。怪我に苦しみながらも、平成4年6月にはシングルス世界ランキング46位(自己最高)に。7年にはウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりとなるベスト8に進出。10年現役を卒業。現在はジュニアの育成とテニス界の発展のために力を尽くす一方、スポーツキャスターなど、メディアでも幅広く活躍している。著書に『挫折を愛する』(角川書店)など多数。

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