2020年11月20日
日本を代表する指揮者として世界を舞台に活躍する佐渡裕さん。世界の一流オーケストラの楽団員たちの心と技術を一つにまとめ、最高の演奏を実現するのは大変難しいことです。佐渡さんはいかにして楽団員を一つにし、最高のパフォーマンスを実現してきたのでしょうか。日本証券業協会会長の鈴木茂晴さんと語り合っていただきました。
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最高のパフォーマンスをいかに実現するか
(鈴木)
私がすごいなと思うのは、100人前後のオーケストラを一遍にまとめる。しかも佐渡さんの場合は海外ですからいろんな考えの人がいるわけで、どうやって団員のベクトルを揃えていくのでしょうか?
(佐渡)
指揮者によってそのやり方は様々で、命令して威圧的に従わせていくタイプもいれば、全く逆のタイプもいます。
僕の基本的な考えは、皆それぞれ場所も時間も環境も文化も宗教も異なる中で生まれ育っているのだから、考えが噛み合わないのは当然だということをまず認識しておくこと。で、僕の理想の形は、皆が一致団結して一つになる瞬間もあれば、皆それぞれがバラバラになる瞬間もある。これを自由自在に操れることだと思うんです。ずっと枠に納まって、その枠の中でやっているのではつまらない。
(鈴木)
そのために心掛けていることはありますか?
(佐渡)
語学力はもちろん必要なのですが、それ以上に一番大事なことは設計図、つまり楽譜が読めているか。例えばAさんがこういうふうに歌った。そうしたらBさんはこういうふうに歌わなきゃいけないっていう法則が楽譜に書いてある。そこは好き勝手に演奏するのではなく、しっかり一人ひとりの音を聴いて指摘できなくてはいけない。
(鈴木)
会社組織に置き換えれば、経営理念や社長の考えを理解し、その規律や社風の中で、一人ひとりが主体的に働くことが大事だということですね。
それにしても、音を聴くということに関して、あれだけの人数で演奏している時に誰か一人でも違う音を奏でたら、瞬時に分かるものですか?
(佐渡)
ブザンソン国際指揮者コンクールで間違い探しというラウンドがありました。約十五分の曲で八か所くらいオーケストラが意図的に間違える。それを一曲通した後に指摘するんです。「ここのビオラが半音違います」「ここのティンパニーがありませんでした」と。
それで一回目でほぼ全問クリアだったんですけれど、制限時間の残りがまだあったので、もう一回演奏してもらった。で、最後の音を切った時にすごく気持ち悪かったんです。「あれっ?」と。
最後の和音だけもう一回やってもらったら、セカンドクラリネットとセカンドオーボエの担当している音が入れ替わっていたんです。それを指摘したら「ブラボー」と拍手喝采でした。
(本記事は『致知』2019年10月号 特集「情熱にまさる能力なし」から一部抜粋・編集したものです。)
◇佐渡裕(さど・ゆたか)
1961年京都府生まれ。1984年京都市立芸術大学音楽学部卒業。1989年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。1995年第1回レナード・バーンスタイン・エルサレム国際指揮者コンクール優勝。2015年9月より、オーストリアを代表し100年以上の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者を務める。著書に『棒を振る人生』(PHP新書)など。
◇鈴木茂晴(すずき・しげはる)
1947年京都府生まれ。1971年慶應義塾大学経済学部卒業後、大和證券入社。引受第一部長、専務取締役などを経て、2004年大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長、大和証券代表取締役社長。2011年大和証券グループ本社取締役会長兼執行役、大和証券代表取締役会長。2017年大和証券グループ本社顧問。同年7月日本証券業協会会長に就任。