中村哲医師が、満天の星空を見上げながら語った「命の話」——NGO「ペシャワール会」会長・村上優

NGO「ペシャワール会」の現地代表として、35年間にわたりアフガニスタンおよびパキスタンでハンセン病患者や難民への医療活動、灌漑設備の普及に尽力した中村哲医師。その偉功は悲しくも突然の訃報によって一層広く世の中に知れ渡りました。本日は中村医師が遺した思いを継ぎ、ペシャワール会の会長を務める村上優さんへのインタビューから、生前の人道支援活動の原点とも言えるパキスタン初訪問時の同行秘話、中村医師と語り明かしたというあるお話をお届けします。

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「てっちゃん」の忘れられない言葉

――村上さんと中村医師との出逢いについて教えてください。

〈村上〉
中村先生は九州大学医学部の2歳上の先輩です。僕は1974年に大学を卒業した後、中村先生が勤める国立肥前療養所(現・国立病院機構肥前精神医療センター)に入り、そこから実質的な付き合いが始まりました。一緒に仕事をしたり、遊んだり、いろんなことを教わったり。

いまは取材だから中村先生と言っていますけど、普段は先輩も同級生も後輩の僕らも「てっちゃん」って呼んでいたんですよ。そういう中で、中村先生は1978年に福岡登高会のティリチミール(標高7千7百8メートル)登山隊の同行医師としてヒンドゥークシュ山脈を分け入り、パキスタンを初めて訪れました。おそらくこの経験が後の人道支援活動に繋がっていったのでしょう。

翌年、中村先生から「トレッキングに一緒に行こうか」と誘われ、登山隊の隊長を務めた方と3人で現地へ向かいました。ところが、ソ連のアフガニスタン侵攻により国境が封鎖され、なかなか通行許可証が取れなかったり、飛行機が欠航になったりと、1か月くらい山の中に閉じ込められたんです。

何もすることがないので、毎日のように満天の星空を眺めながら夜な夜な、医療のことから人生のことまで語り明かしたものです。それは僕にとって非常に大きな体験でした。その時、中村先生が話していたことで忘れられないのは

「命というのは不平等である」

という言葉です。

――命というのは不平等である。

〈村上〉
僅か数十円の薬が買えずに亡くなっていく人たちを目の当たりにし、つくづく「命というのは不平等である」との思いを抱かれたのでしょう。それを何とか解決しなければいけないと強い口調で言われていた姿は、いまも鮮明に覚えています。

中村先生は精神科の医師でありながらも、一精神科医の枠に留まらず、精神科医療そのものに関心を抱き、人間の命の問題を考えていたように思います。僕は同じ精神科医として、考え方の深さと広さにいたく感銘を受けたんです。

――村上さんが中村医師に惹かれていたことが伝わってきます。

〈村上〉
やっぱり人を惹きつける魅力というのは多彩にありましたね。非常に寡黙な人で、そんなに弁が立つタイプではなかったものの、先ほどの「命は不平等」というひと言にしても、一語一語の言葉の重みが違うなと。そういうところに尊敬の念を抱いていました。

(本記事は『致知』2020年6月号 特集「鞠躬尽力」より一部抜粋したものです。)

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◇村上 優(むらかみ・まさる)
昭和24年福岡県生まれ。49年九州大学医学部卒業。同年国立肥前療養所(現・国立病院機構肥前精神医療センター)入職。平成16年同・臨床研究部長、18年琉球病院長、26年榊原病院長。30年さいがた医療センター院長特任補佐。4年ペシャワール会事務局長、18年ペシャワール会副会長を経て、29年ペシャワール会会長。令和元年PMS(平和医療団・日本)総院長。

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