介護の詩~詩の朗読で心を耕す~詩人・藤川幸之助

20年以上にわたって認知症の母を介護し、その体験を詩に綴ってきた藤川幸之助さん。詩には母と向き合う藤川さんの苦しみや悩みが生々しく記され読むものの心を深く揺さぶります。「誰もが生きているだけで尊い存在である」という藤川さんの珠玉の詩を朗読動画と合わせてご紹介します。

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作品「夕日を見ると」

今日もここから
あの夕日が見えました
あの夕日を見ると
いつも思うんです
今日も母にやさしくできなかったと
もっと母にやさしくすればよかったと

ウロウロするな!
ここに座っていろ!
同じことばっかり言うな!
もう黙ってろ!
母さんが病気だって
分かっちゃいるけど
「おれの母さんだろう!
 しっかりしろ!」
と、つり上がった目で
何度も何度も母に言って
母は驚いて
私を悲しそうに見つめて
私は言った後自分をずっと責め続けて

この夕日を見ながら
明日こそ母へやさしくしようと
毎日毎日そう思うけれど
毎日毎日このくり返し
母さんごめんなさい
母さんに苛立つぼくを許してください
母さんごめんなさい
こんなぼくを許してください

作品「道」

何度も転んだ。
何度も何度も立ち上がった。
そのたびごとにじだんだ地団駄ふ踏んで
踏み固めてきた私の道は
あの山をこ越え
私はまだ見たこともない私に出会い
あの海に行き着き
人の悲しみの深さを知った。

顔に当たる風の強さで感じるのだ。
血のにじむひざ膝の痛みで感じるのだ。
立ち上がり歩み出す私の一歩が
転ぶごとに力強く大きくなっていることを。
あの悲しみから踏み出したその一歩が
この喜びへつながっていることを。

私をつまずかせた石ころの中に
転んだ私の心の中に
私の明るい未来はひそ潜んでいる。
何度も何度も立ち上がり
大粒の汗をしみ込ませて
道が私の道になっていく。

「徘徊と笑うなかれ」

徘徊と笑うなかれ

母さん、あなたの中で

あなたの世界が広がっている

あの思い出がこの今になって

あの日のあの夕日の道が

今日この足下の道になって

あなたはその思い出の中を

延々と歩いている

手をつないでいる私は

父さんですか

幼い頃の私ですか

それとも私の知らない恋人ですか

妄想と言うなかれ

母さん、あなたの中で

あなたの時間が流れている

過去と今とが混ざり合って

あの日のあの若いあなたが

今日ここに凜々しく立って

あなたはその思い出の中で

愛おしそうに人形を抱いている

抱いているのは

兄ですか

私ですか

それとも幼くして死んだ姉ですか

徘徊と笑うなかれ

妄想と言うなかれ

あなたの心がこの今を感じている

作品「手をつないで見上げた空は」

幼い頃
手をつないで見上げると母がいた
青空は母よりもっと遠くにあって
大きな白い雲が一つ流れていた
幸せのことなんて考えたことなかった

私がつまずき失敗をすると
私の手を両手で優しく包んで
母はいつも青空の話をした
雲が流れ雲に覆われ
青空は見えなくなり
時には雨が降るから
青空を待ちこがれて
青空の美しさに
心打たれるんだと
何度失敗して何度つまずいたことか
そして何度この話を聞いたことか

認知症の母との日々の中で
苛立ちという雲が出て
悲しみという雨が降った
私は何度も失敗してつまずいても
母は何も言ってくれなくなったが
手をつないで散歩をすると
いつも母は静かに空を見上げていた

青空がただ頭上に広がっている
幸せもまたただあるもの
求めるのではなく
気づくものなんだ
と母と手をつないで
空を見上げるといつもいつも思う

◇藤川幸之助(ふじかわ・こうのすけ)

昭和37年熊本県生まれ。小学校の教師を経て、詩作・文筆活動に入る。認知症の母親に寄り添いながら命や認知症を題材にした作品をつくり続ける。また、認知症への理解を深めるため全国での講演活動にも取り組んでいる。『満月の夜、母を施設に置いて』『徘徊と笑うなかれ』(共に中央法規)、『マザー』『ライスカレーと母と海』(共にポプラ社)、『支える側が支えられ 生かされていく』(致知出版社)『赤ちゃん キューちゃん (絵本こどもに伝える認知症) 』(クリエイツかもがわ)など著書多数。

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