カリスマ経営者——永守重信・日本電産会長のリーダーシップ論

世界的な精密小型モータの開発・製造会社、日本電産が社長交代を発表しビジネス界で話題になっています。同社をけん引する創業者でカリスマ経営者ともいわれる永守重信会長兼CEO(最高経営責任者)。その仕事に賭ける情熱や人生論について、月刊『致知』の記事を通して改めて振り返ってみました。対談相手はウシオ電機の牛尾治朗会長です。

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創業時の厳しさを忘れない仕掛け

(牛尾)
永守さんの強力なリーダーシップによって、日本電産は精密小型モータを中心とするモータ業界で世界のトップの企業になりました。東日本大震災後も成長を持続しておられます。

(永守)
ありがとうございます。人生はサインカーブのように上り坂と下り坂を繰り返すものだと私は考えています。楽しいことと嫌なことが半分ずつで、足したらプラス・マイナス・ゼロになるのが人生だと思うのです。

(牛尾)
永守さんの経営人生を象徴するものの一つが、日本電産本社の1階奥に設置しておられるプレハブ建屋だと思うのです。創業当時に作業場として使っていたものだそうですね。

(永守)
私としては、創業期のあの厳しい時期を乗り越えてきたからこそ、ここまでこられたわけでね。辛い時にそこへ行くと、あの時の苦しさに比べたらこんなものは大したことはないなと思い直して、また元気を取り戻せるのです。新入社員にも入社時に必ず見せますし、落ち込んでいる幹部がいたら、ちょっと見てこいと言うのです。

一番怖いのは、後から入ってくる幹部が昔の苦労を経験していないために、一流企業に入ってきたような感覚で振る舞うことです。そういう人たちには口で言っても伝わりませんから、プレハブ建屋を見せるのが一番いいのですよ。

そこは建物だけではなしに、当初からの記録もたくさん残っていて、私自身が現場で懸命に仕事をする様子も残っている。それを見ると皆ハッとするのです。逆に、それを見ても感激しない人は、最初から採用しないほうがいいです。

会社がおかしくなる6つの要因

(永守)
だいたい会社がおかしくなる要因を6つ挙げよと言われたら、一番はマンネリでしょう。それから油断、そして驕り。人間はすぐこういう躓きをするのですが、この段階はまだ元に戻せるのです。

その次が妥協。震災がきたのだからしょうがない、円高だからしょうがないと妥協する。これはもうさらに落ち込みますね。次は怠慢です。頑張っても怠けても給料は一緒じゃないかとかね。そして最後は諦めです。そんなこと言ったってできません、という考えがはびこってきた時は末期症状ですね。

(牛尾)
特に会社が順調な時が危険ですね。他社よりも昇給率もいいし、収益もいいし、いいところに入れてよかったですね、と人から言われるようになると、だんだん自分を見失ってくるんです。
 
永守さんは社員の皆さんの提案を全部自分で見られたからこそ(リーマン・ショックから)急回復を実現できたのでしょうね。ハードワーカーとして知られる永守さんならではの危機対応であって、普通の経営者はそこまで見ないでしょう。

(永守)
私は普段から伝票も全部自分で目を通しますからね。出社するといつも膨大な伝票が机の上に置いてあって、朝一番にそれを30分で見るのです。大変な分量ですから普通は30分ではとてもチェックできません。だから私は、どの男が最後の判子を押しているかを見るわけです。この男の判子ならOK、この男はいいかげんなのが多いなと。

「若いうちの苦労は買ってでもせよ」

(牛尾)
永守さんは運気の強い人だけど、これはやっぱり美徳があるからですよ。

(永守)
運気を呼び込むなら、やっぱり自分のやっていることに惚れ込むことも大事ですね。よく二代目の経営者が、親父が始めたから仕方なしにやっていると言うのですが、そんな仕事が成功するわけがない。惚れ込まなければダメです。人が何と言おうが、この仕事が俺の天命、天職だと惚れ込んでやれば、必ず上手くいきますよ。
 
それから、私が考える経営者の基本条件として極めて重要なのは、挫折をどれくらいしているかということです。やっぱり強い経営者を見ていると、とんでもない挫折を経験していますよ。

(牛尾)
一人の経営者を育てるには、それ相応の投資が必要ですね。

(永守)
経営者が経営や人間的な力量を養っていく上で、挫折というのは必要なのです。私自身はこれまで一所懸命働いてきましたから、幸い経営基盤を揺るがすような危機には直面しませんでしたが、創業当初の資金繰りの苦労から始まって、いろんな挫折を経験してきました。

(牛尾)
人間的な器を大きくしていくには、やはり未知な分野にチャレンジする好奇心、冒険心が必要だと思います。

(永守)
昔はよく「若いうちの苦労は買ってでもせよ」と言いましたが、そういう発想がいまの若い人になくなってしまいました。私は母からいつも、辛い出来事は自分の人間性を大きくするために神が与えた試練だと言われて育ちました。

嫌なことがあった後は、必ずいいことが倍ある。だから嫌なことが耐えられるのだと。私はいつも社員に言うのです。どんな辛いことがあっても自分の人生はもうダメだと、決して諦めるな。逆にそれはチャンスと思えと。

(本記事は『致知』2011年10月号の特集「人物を創る」より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇牛尾治朗(うしお・じろう)
昭和6年兵庫県生まれ。28年東京大学法学部卒業、東京銀行入行。31年カリフォルニア大学政治学大学院留学。39年ウシオ電機設立、社長に就任。54年会長。平成7年経済同友会代表幹事。12年DDI(現KDDI)会長。13年内閣府経済財政諮問会議議員。著書に『わが人生に刻む30の言葉』『男たちの詩』『わが経営に刻む言葉』(いずれも致知出版社)がある。

◇永守重信(ながもり・しげのぶ)
昭和19年京都府生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒業。48年、28歳で日本電産設立。駆動技術に特化した海外展開と積極的なM&Aにより業容を急拡大。同社を世界を代表する総合モータメーカーに育ててきた。著書に『「人を動かす人」になれ!』(三笠書房)『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所)などがある。

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