日本海海戦で再評価された幕臣・小栗上野介の先見性とは

1905(明治38)年5月27日から28日にかけて日露海軍による日本海海戦が行われ、日本の連合艦隊は露バルチック艦隊を撃破。優れた戦術もさることながら、幕臣・小栗上野介が横須賀造船所の必要性を必死に訴え続けた「事前準備」が勝因とも言われています。小栗上野介研究の第一人者、東善寺の村上泰賢住職がその功績を解き明かします。

遣米使節団の一人として訪米

小栗上野介が歴史の表舞台に立ったのは、時の大老井伊直弼によって遣米使節団の目付に抜擢されたことに始まる。

遣米使節団とは日米間で調印された修好通商条約の批准書を取り交わすために編制されたものだが、不平等条約を結ばされた上に、わざわざ渡米する必要まであったのかという批判に晒されることが多い。

しかし、これには幕府の思惑が強く働いていたことはあまり知られていない。日本より遥かに進んだアメリカの政治や社会を実地に見聞し、日本の将来に資するところを得てきたいという意向を、幕府側が早くからアメリカ側に提示していたのだった。

安政7(1860)年1月18日、新見豊前守正興を正使とした遣米使節団が米国軍艦ポウハタン号に乗り込むと、一行は一路サンフランシスコへと旅立つ。

その後、パナマを経てワシントンでブキャナン大統領と批准書を交わすと、アメリカ側からの提案もあって、ニューヨークからナイアガラ号に乗って大西洋、インド洋を航海し、日本に戻ってきている。小栗上野介は初めて世界一周をした日本人の一人であったのだ。

日本を木の国から鉄の国へ転換

遣米使節団一行にとってワシントンで見るもの触れるもの、すべてが驚きの連続だったことだろう。殊に衝撃を受けたのが海軍造船所の見学であった。

海軍造船所とは、単なる組み立て工場ではなく、造船に必要なあらゆる工業製品を生み出す総合工場だった。しかも、その原動力は蒸気機関であった。

蒸気船の動力が蒸気機関であることしか知らなかった一行にとって、造船所の原動力にも蒸気機関が使われていたことは、おそらく大変な驚きだったはずだ。

この時、既に小栗上野介の頭の中では、日本も同じような造船所を造ればよいではないかと思い始めていた。もちろん、どこに造ればよいか、幾らかかるのか、どの国の指導を受ければよいのかなど、様々な課題も同時に思い浮かんだはずだ。

日本を木の国から鉄の国へ――。造船所建設はまさにその第一歩であり、それが日本を国際レースのスタートラインに立たせることになる。この思いこそ、後に小栗上野介が造船所建設を声高に主張していくベースとなった。

横須賀に造船所建設が認められたのは、帰国から4年目のことであった。残念ながら小栗上野介はその目で造船所完成を見ることはなかった

江戸無血開城前に罷免された小栗上野介は江戸を引き払うと、知行地の上州権田村(現・高崎市倉渕町)への移住を決めた。しかし、その僅か2か月後には、明治新政府軍の手によって、何の罪もないままに家臣とともに斬首されてしまう。

日本の近代化に努めた人物のあまりにあっけない最後だった。

遺族を前に東郷平八郎が謝辞

時は下る。日露戦争で日本がロシアに辛勝した後のことである。

連合艦隊司令長官として日本海海戦を指揮した東郷平八郎は、小栗家の遺族を自宅に招くと、次のように感謝の気持ちを述べたという。

「日本海海戦において完全な勝利を収めることができたのは、軍事上の勝因の第一に、小栗上野介殿が横須賀造船所を建設しておいてくれたことが、どれほど役立ったか計り知れません」

というのも、海戦中に戦果を挙げた中小の駆逐艦や砲艦、魚雷艇などの多くは横須賀や呉の造船所でつくられたものであり、また、艦船の修理点検を国内の造船所で迅速に行えたことも、大きく勝利に貢献したからにほかならない。

小栗上野介には先見性や洞察力の高さを感じるが、その根底には強烈な当事者意識を感じ取ることができる。

(本記事は『致知』2017年8月号 特集「維新する」より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

小栗上野介(おぐり・こうずけのすけ)
文政10(1827)年~慶応4(1868)年。徳川家の旗本小栗家に生まれる。32歳で日米修好通商条約批准の遣米使節として渡米、世界一周後に帰国。8年にわたって幕政を支え、その間に外国、勘定、江戸町、歩兵、陸軍、軍艦、海軍各奉行を歴任。慶応4年閏4月6日、明治新政府軍の手で斬首される。享年41。

村上泰賢(むらかみ・たいけん)
昭和16年群馬県生まれ。駒澤大学文学部卒業。小栗上野介顕彰会理事。編著に『小栗上野介のすべて』(新人物往来社)、著書に『小栗上野介』(平凡社新書)がある。

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