渡部昇一が中村天風に学んだ人生発展の法則

心を積極的観念で満たし、よき習慣をつくることで、よりよき人生を実現できることを説いた哲人・中村天風。その教えを自らの人生に生かしてきた知の巨人・渡部昇一さん(故人)に、強運を引き寄せ、人生を発展させていく秘訣をお話しいただきました。

ネガティブな言葉は使わない

(渡部)

潜在意識にいいイメージを送り込むことと関係するのが日常の習慣です。習慣は第2の天性なのだと天風さんはいっていますが、どんな習慣を身につけるかによって、人間は大きく変わります。天風さんも、人間とは変わるものだということに気がついてから、良い習慣を身につけるべく訓練をしたそうです。

よき時代のアメリカや勃興期のイギリスで広く読まれた教訓本のことを「セルフ・インプルーベント」といいます。これは、「人間学」といってもいいと思いますが、非常に習慣論を重んじています。つまり、習慣が人間をつくるという考え方が非常に強いのです。

この習慣が人間をつくるということは、潜在意識と密接に関係しています。習慣とは、いちいち意識しないでもできるというものだからです。それは潜在意識の働きと言っていいのです。

良い習慣を身につけるためには、積極的な思想を潜在意識に送り込まなければなりません。その一つの方法として、「ネガティブな言葉を使わない」ことが大切です。

「言葉は言ってしまった時に、その音響はなくなっちゃっているようだが、波動が残っているんだ」(『成功の実現』P124)と天風さんは述べています。

だから言葉には気をつけなくてはいけない。絶対に消極的な言葉は使わない、否定的な言葉は口にしない、どんな場合でも不平不満を口にしないことが大切だというのです。

日本では「言霊」というように、昔から言葉には特別な力があると考えられてきました。日本だけではありません。とくに原始社会では、言葉の持つ力を非常に怖れました。呪われただけで死ぬという現象があるくらい、言葉には人に強烈な暗示をかける力があると考えられていたのです。

そのため、昔は自分の名前を知っているのは親兄弟と結婚相手くらいだったといわれています。

万葉集の冒頭にも、こうあります。

「籠()もよ み籠()持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち この岡に 菜摘ます子 家(いへ)告()らせ 名(な)告()らさね」

(籠もよい籠を持ち、掘串もよい掘串を持って、この岡で菜をお摘みの娘さん。あなたの家は何処か聞きたい。言いなさいな。大和の国は私こそすべてを従えて一面に治めているのだが、私にこそは教えてくれるでしょうね。あなたの家をも名をも。/『日本古典文学大系』岩波書店)

この歌は求婚の歌です。相手の名前を知る、自分の名前を知らせるという行為は、そこに呪いをかける力が生まれることを意味します。ゆえに、相手が本当に愛する人で、結婚する気にならなければ、女の人は名前を明かさないという習慣さえあったといわれています。

ですから、いい言葉を絶えず使うようにして、ネガティブな言葉は極力避けることが大切なのです。

たとえば「今日は暑くて大変だな」というよりも、「今日ぐらい暑いほうが夏らしいな」というほうがいいのです。つまらないことと考えるかもしれませんが、何事も必ずプラスに考えて表現する習慣を身につけるようにすることが大切です。そうすると、次第に潜在意識の中もプラスで満たされていくのです。

「気高い言葉、神聖で高級な言葉、いいかえれば、積極的な言葉を表現した場合には、生命のいっさいが極めて状態のいい事実になって現われてくる」(『成功の実現』P130)と天風さんはいい、「つねに積極的な言葉をつかう習慣をつくりなさい。習い性となれば、もう大した努力をする必要ない」(同書P133)と良い言葉を使うことを習慣にするように勧めています。

中小企業で働く人々に非常に影響力のある、斉藤一人さんという人がいます。この人は、「自分はツイていると1000回言えば必ずいいことが起こる」とさえいっています。

これはあながち嘘ではないと思います。商売をしている人が、「ああ、駄目だなあ」と思えば決して上手くいかないものです。どんなときもいいように考えて、「自分はツイている」と考え、それを口に出し続けたら、その人にはどこかでチャンスが巡ってくるように思うのです。

運のいい、活力のある人と交流する

(渡部)

よりよく生きるための一方策として、天風さんはどういう人と交際すべきかということについて話しています。結論からいえば、「活力のある人と交際しろ」というのです。自分よりも活力の弱い人と付き合うと活力を吸い取られる、というわけです。

だから、握手をするのも、相手が自分より弱いような人間だったら、「もったいのうございますから、失礼いたします」と断り、相手が自分より丈夫なようだったら、「ありがとうございます」といって手を握って相手の活力をもらうのがいいといっています。 

こういう心得を怠ってはいけないというわけです(『いつまでも若々しく生きる』P250)。

また、「病人は活力の豊富な人に、機会あるごとに接触して、お見舞いに来る人でも、弱い人が来たら、家にあげちゃいけない」(同)ともいっています。これは按摩さんなどにもいえることで、按摩さんは病人より強くないと務まらないといいます。 

『論語』に「益友」「損友」という言葉が出てきます。付き合うと必ず益をもたらしてくれる人がいる一方で、必ず損を招く人がいるのです。損友と付き合って救えるような自信がない人は、残念ながら、遠ざかるしかありません。そうしないと、自分の運も吸い取られてしまいます。残酷な言い方かもしれませんけれど、現実とはそういうものです。ですから、ここで天風さんがいわれていることはよくわかります。 

この逆の場合を考えてみればいいかもしれません。本当かどうかわかりませんが、豊臣秀吉は浪人が「召し抱えてもらいたい」とやって来ると、「おまえは運がいい男だったか、悪かったか」と聞いたそうです。そして、運のいい者だけを召し抱えたといいます。 

秀吉は「自分は運がいいから今の地位にある。だから、自分の脇につき者たちもみんな運のいいやつでなくてはいけない」というような基準で選んだというのです。 

これは、大いにあり得ると思います。よほど心身のパワーが強力な人でない限り、運が悪い人、景気の悪い人と付き合うと精気を抜かれてしまいます。残酷なようですが、成功した人は皆、結果的に運の悪い人を遠ざけていると思われます。 

私の見聞きしたことでいえば、ある経営者が経済事件に巻き込まれてマスコミなどに厳しく叩かれたことがありました。その人はそれまで順風満帆でやってきて叩かれたことのないような人でしたから、そのときは随分落ち込んでいました。 

その人が、おそらく職を辞して時間ができたからでしょう、多くの著名人が参加する会合に顔を見せました。その人もメンバーだったのですが、それまでは忙しくて欠席ばかりだったのです。 

そのとき、ふと彼が漏らしたのです。「こういう運のついている人たちの間にいなくちゃ駄目ですね」と。その言葉を聞いたとき、なるほど、この人は成功の法則を知っているなと思いました。彼のいったことは正しいのです。 

ですから、もしも景気のいい人と付き合おうと思ったら、景気の悪い話をしては絶対に駄目です。多少誇張してでも景気のいいことをいうと、相手は喜んで付き合ってくれます。 

逆にいうと、大聖人のような人は別として、弱い人と付き合ったり、弱い人を集めて話をするのは大変なことなのです。 

ある知り合いの先生の同級生で精神科に行った人が9人いたそうですが、7人は今、精神病院に入っていると聞きました。ミイラ取りがミイラになってしまったのです。だから、カウンセリングというのは、よほど強い人でなくては務まりません。そうでないと、自分が引き込まれてしまいます。 

一説によると、がんの専門医はがんで亡くなる方が多いといいます。それも患者に引き込まれるのかもしれません。毎日がん患者を見て、がんのことを考えて生活しているのですから、それもわからなくはありません。 

その点、天風さんはそういう人たちに引き込まれずに救い出す強さを備えた人だったのでしょう。 

精気を抜かれないように気をつけなくては入れない。これは運を引き寄せる方法であり、人生を成功に導く鉄則なのです。 

(本記事は致知出版社刊『中村天風の成功哲学』から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

 渡部昇一(わたなべ・しょういち)

昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。平成13年から上智大学名誉教授。29年逝去。 

中村天風(なかむら・てんぷう)

明治9年東京生まれ。カイロでヨガの聖者カリアッパ師に出会い、ヒマラヤ山脈の麓で修行。実業界で活躍するが、大正8年43歳の時に「統一哲医学会(後に天風会と改称)」を結成。政財界の有力者が続々と入会。昭和43年逝去。享年92歳。

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