阿川佐和子「テレビの仕事、なくなるよ」と言われた日

ベストセラー『聞く力』や『強父論』の著者で、インタビュアー、作家として活躍する阿川佐和子さん。現在の仕事を始める原点は、父・阿川弘之氏にあったといいます。これまでの軌跡を振り返りながら、阿川さんが大切にしているモットーを伺いました。

続けることが力になる

――現在のお仕事を始められたきっかけを教えてください。

〈阿川〉
父(阿川弘之氏)は作家ですし、家に会社員はいませんでしたから、私も大学を出ても就職はしなかったんです。そもそも当時女性は就職しても2、3年で寿退社するのが一般的でしたから、私はお見合いをしながら、好きな織物の修業をしていたんです。

そうしたら28歳の時、テレビの仕事をしないかと声を掛けていただきました。朝の生番組のワンコーナーでレポートする仕事でしたが、父と雑誌に載っているのを番組プロデューサーが見て依頼してくださったのです。この仕事自体は2週間で終わりましたが、30歳目前に報道番組『情報デスクToday』のアシスタントにお声掛けいただき、それから10年近く報道の仕事を続けました。

――報道キャスターが水に合ったということでしょうか。

〈阿川〉
全然(笑)。ニュースを読むのもインタビューも下手だから、いつも制作のおじさんたちから怒られ、ビービー泣いていました。報道は合わない、早く辞めたいとずっと思っていましたよ。

でも、嫁に行くあてもないし、織物も止めていました。書く仕事もやっていましたが、作家になれるとか思いもしませんでしたしね。テレビも何となく続けているだけ。とにかく自信がなかったんです。で、1991年に『NEWS23』のキャスターをやめ、一度テレビの仕事を離れました。

――不安はありませんでしたか。

〈阿川〉
テレビ局の方にも「仕事なくなるよ」と言われました。ただ、辞めた後でもし、「阿川に頼みたい」という仕事があれば、それが自分を認めてくれている仕事ではないかなと。『週刊文春』の対談のお話もちょうどその頃です。

――一度、自分を見つめ直したのがよかった?

〈阿川〉
結果的にはそう言えなくもないですが、報道の仕事を離れたからようやくやりたいことが見つかった、というのとは違います。そういうステップがあったからこそ、より居心地のよいのはこっちだと自覚できたり、周囲も「阿川はこの仕事に意外と合っている」「いや、トンチンカンだな」と分かるようになった。

だから、続けることが力になるんだと思いますよ。いま、なんとか『TVタックル』の司会進行が務まるのも、報道の10年で培ったベースがあるからです。そう思うと、人生に無駄なことってないなと。私の30回以上に及ぶお見合い遍歴もインタビューの基礎になっているかもしれないし(笑)、『お見合い放浪記』という本まで出しましたから、本当に人生無駄なことはないですね。

「どうせ無理」という言葉をなくさなきゃいかん

――社会に出てからロールモデルにされた方などはいますか。

〈阿川〉
多くインタビューをしているので、その人その人の発する言葉に感化されることはしょっちゅうですが、この人を目指したいという人は特にいなかったんですね。ただ、5年前に知り合った少し年上の友人で、昨年がんで亡くなった方がいました。世間に知られていないまったく無名の人ですが、これから私が不幸な状況になるとか、辛い日々が訪れたりした時はその人のことを思い出そうという一つの基準になっています。

――どんな影響を受けましたか。

〈阿川〉
初めて会った時、「私、がんで余命2か月と宣告されているの」ってニコニコしておっしゃるんです。「ええ?」と驚いたら「でもね、もう少し頑張ろうと思うの!」って。それから5年間、病気に対する愚痴とかネガティブなことは一切聞かなかった。「佐和ちゃん、いま病室で中国語講座やっているの!」とおっしゃるから、何かと思えば家族で麻雀していたとかね(笑)。何しろ辛いことを明るく環境設定し直すことにかけて異様な能力のある人。

最後の最後に、私とある約束をしていたけど、それを果たせずにごめんなさいというメールをくださったの。私は「そんなことを言わないでください。私はあなたに出会えたのが人生の宝物です」と送りました。

葬儀に伺った時、初めてお会いするお手伝いさんが、「奥様は佐和ちゃんからもらった“あなたに出会えたことが人生の宝物だ”というメールが嬉しくて、みんなに“見て、見て!”と、本当に喜んでおられました」と教えてくれました。どうして最後まで人に対する感謝と明るさを持ち続けていられるのかと思うような、観音様みたいな人でした。この人が私の理想です。

――阿川さんがご自身がこれまで大切にされてきた信条やモットーはありますか?

〈阿川〉
向上心を持たない。夢も目標もない。その場その場をなんとか凌いで生きていくと。

――いまいる場で必要とされる人間になるということですか?

〈阿川〉
長期的展望を描く能力がないということもありますが、向上心は必要な場合とそうでない場合があるように思います。

例えばゴルフなんかはだらだらやるより目標のスコアなどを持つほうがいいと思いますが、仕事に関しては、いま目の前の仕事を泣きながらでも必死にやることが次の力になると思っています。好きな仕事に就いても辛いことはあるし、合わない人間もいっぱいいますし。

そういう意味で、私は与えられた仕事と人間関係を大切にしていくことを重視したいのであって、向上心はあまり持たないようにしてきましたね。

(本記事は『致知』2012年6月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋・再編したものです。人間力・仕事力を高める記事が満載の『致知』、詳細はこちら!)

◇阿川佐和子(あがわ・さわこ)
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昭和28年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。56年『朝のホットライン』のリポーターとなり、58年から『情報デスクToday』のアシスタント、平成元年から『筑紫哲也NEWS23』のキャスターに。10年から『ビートたけしのTVタックル』レギュラー出演。11年檀ふみ氏との往復エッセイ『ああ言えばこう食う』(集英社)により第15回講談社エッセイ賞を、12年『ウメ子』(小学館)により第15回坪田譲治文学賞受賞。著書多数。近著に『聞く力』(文藝春秋)がある。

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