野村克也さんが『致知』だけに語った伸びる選手・強いチームの条件

三冠王を獲得した強打の名キャッチャーで、監督としても日本一に3度輝いた野村克也さんが亡くなりました。84歳でした。南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督として通算24年。他球団で戦力外となった選手を蘇らせ、強者を倒す戦略・戦術は他球団からも高く評価されていました。名監督が月刊誌『致知』だけに語った「伸びる選手」「強いチーム」の条件を再録し、故人の功績を偲びます。

結局は、1日24時間の使い方

1年目のシーズンが終わった時、2軍のマネジャーから呼び出されましてね。「我々は素質があるかないかは見ていれば分かる。おまえはプロ野球では無理だ」と。要するに、クビってことですよ。クビになるのは仕方ないにしても、納得できないわけです。だって2軍にいただけで、まだ試合にも出ていないんだから。なんとかクビを免れましたが、このままだったら来年また同じことになりかねない。どうしたらうまくなれるか、どうしたら1軍に上がれるかって、24時間そればかり考えていました。

でも最終的には、1日24時間の使い方だな、と思いました。ライバルに追いついて追い越すにはどこで差を縮めるか。グラウンドではみんな同じ練習しているんです。グラウンド外での過ごし方がポイントだと思い、自分で個人練習のメニューをつくりました。

まずは、攻撃面だなと思って、練習後に毎日素振りをコツコツやっていくことにしました。これからの野球はパワーだと言われていたので、ウエイトトレーニングも欠かさずやりました。といっても、いまのような道具もお金もない時代でしたから、醤油の一升瓶に砂を詰めて、それを使って鍛えたんですよ。

悔いを残したままクビにされたくない。やることだけはやろうと自分に言い聞かせました。プロの世界は当たり前ですが、どこまでも自分との闘いですよ。夜、僕が素振りをしていると、先輩が若い奴を連れて繁華街に行く。「僕はいいです」って言って残って自分でつくった個人メニューをこなしていましたね。

王・長嶋のような人材がいる組織が強い

強いチームと弱いチームの境はどこにあるのか。やっぱり、中心なき組織は機能しません。鑑(かがみ)になる人が組織にいるといないとでは、チームづくりが全然違う。鑑というのは、例えば王や長嶋のことです。巨人から南海にトレードされてきた選手が何人かいましたが、彼らが口を揃えて言ったのは、「王さんや長嶋さんがあれだけやるから、我々もボヤボヤできないですよ」と。
 
要するに野球の技術はもちろん、私生活も含め、模範となる選手です。「王に見習え」「長嶋を見習え」と言える選手がいると、チームづくりがしやすいんですよ。だからあの巨人のV9という偉業は、単にいい選手が揃ったからでなく、いい選手たちがみんな熱心に野球に取り組んだんでしょう。

また、その指揮官だった川上さんも偉かったと思います。ある時ミーティングに長嶋が遅れてきて、しかも筆記用具を持たず、手ぶらだったそうです。川上さんは長嶋を注意して、筆記用具を取りに行かせて、その間、ミーティングは中断したと聞きました。鑑となる選手とはいえ特別扱いせず、礼節を乱した時はきちんと叱る。また、そうすることで他の選手も引き締まるんです。だから、強いチームには節度、いい意味での厳しさがあります。

逆に、弱いチームは仲良しチームになっていますね。ヤクルトに行ったばかりの頃、ミスした選手がベンチに帰ってきた時、「ドンマイ」と声を掛けた選手がいたんです。「何がドンマイじゃ、このバカやろう」って烈火の如く怒ったんですよ。プロはミスが許されない世界です。その感覚がなくなっていくんです。

優勝を目指して戦っていることはもちろん、プロは高度な技術をお客さんに見てもらわなければいけない。どう考えても、プロの世界ではミスは許されないし、厳しくて当たり前なんです。その後、ヤクルトでは慰めの言葉は一切禁止しました。

また、弱いチームはどうしても個人成績優先主義になりがちです。楽天には近鉄の残党選手が多いのですが、彼らは万年Bクラスだから、端から優勝は無理だと思っている。自分の年俸を上げるには、個人成績を上げて評価されるしかないから、「フォア・ザ・チーム」という精神が薄くなるんです。弱いチームがそういう意識でやっていたのでは、絶対に勝てません。自分はチームが勝利するために何ができるか、何をすればいいのかを考えてプレーするような選手が増えないと、強くなりません。

あと、これは強い、弱いに限らず、どのチームにも言えることですが、”組織はリーダーの力量以上にはならない”これは当たっていると思います。強いチームにするにはスカウトや育成、フロントの体制などいろいろな要件があるけれども、一番力を注ぐべきは監督が成長すること。そうでないとチームのレベルは上がっていきませんね。

(本記事は『致知』2010年12月号 特集「発心、決心、持続心」より一部抜粋・編集したものです。)

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◇野村克也(のむら・かつや)
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昭和10年京都府生まれ。29年峰山高校からテスト生として南海(現・福岡ソフトバンク)ホークスに入団。本塁打王9回、打点王7回を取り、40年には戦後初となる三冠王となる。MVP5回。45年~52年監督(捕手兼任)。その後、選手としてロッテ、西武を経て55年引退。平成2年よりヤクルト監督としてリーグ優勝4回、日本一3回。11年から3年間阪神タイガース監督、14年から社会人野球シダックス監督、18年から東北楽天ゴールデンイーグルス監督。22年同チーム名誉監督就任。著書多数。最新刊は『野村の実践「論語」』(小学館)。

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