バスケ男子日本代表・八村塁選手を育てた名コーチが語る、選手育成「3つの極意」

NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のドラフト一巡目でウィザーズの指名を受け、一躍時の人となった八村塁選手。恩師の明成高等学校(宮城県)佐藤久夫ヘッドコーチは、高校時代の八村選手にどのような指導を行ってきたのでしょうか。古川商業高校(現・古川学園高校、宮城県)女子バレーボール部元監督の国分秀男氏と、選手育成の極意を語り合っていただきました。

◉誰の人生にも、よい時と苦しい時があり、その時々で心に響く言葉は違う。仕事にも人生にも、真剣に取り組む人たちの糧になる言葉を――月刊『致知』のエッセンスを毎日のメルマガに凝縮! 登録特典〝人間力を高める三つの秘伝〟も進呈しております。「人間力メルマガ」こちら

勝ち続けるチームをつくる「人間教育」

〈国分〉
かつてモントリオール五輪で女子バレーを金メダルに導いた山田重雄さんにお会いした時、私は「高校で強いチームをつくる秘訣を1つ挙げるとしたら何ですか」と質問したことがあります。

この時、山田さんは「1秒でも長く選手の傍にいることだ」と即座に答えられました。山田さんのこのひと言が私の指導法を大きく変えたのです。

〈佐藤〉
スポーツに勝敗はつきものです。勝ちに対する執念は大事ですが、私は一方で勝敗にこだわってはいけないといつも思っています。むしろ、私が培ったスポーツ哲学やスポーツマンとしての心得を選手たちに伝え、それによって少しでも人間的に成長してくれることが私の願いですね。

そのために大事なのは、選手たちの内面に迫ることです。

選手は皆個性があって自信に満ちた者もいれば、そうでない選手もいるわけですね。一人ひとりの伸びる芽を引き出すには、指導者が十分時間をかけて選手たちに接し、しかも一瞬でも選手のよさを見逃さない観察力が求められると私も思っています。

〈国分〉
見学に伺った時、体育館の入り口に「礼儀を知らない者は入るべからず」と書かれてあるのを見て、佐藤先生が素晴らしい教育者でもいらっしゃることを感じました。

一般にスポーツ指導者の発想は「勝つ」というところから生まれるものですが、佐藤先生は逆です。人づくりをとおして強いチームをつくろうとされている。

そのことは私も常に感じてきたことで、人間教育を抜きにして本当に勝ち続けるチーム、愛されるチームはできません。1、2回、たまたま優勝できたとしても、全国のトップクラスを長く維持するのは難しい。

心を優先したチームづくり

〈国分〉
佐藤先生は、選手の皆さんに「あくまで高校生らしく、一生懸命さは日本一になろう」と常におっしゃっていると聞いています。私はそこに仙台高校や明成高校の強さの秘密があるように思うのですが、いかがですか。

〈佐藤〉
先ほどの話と重複することですが、私が高校スポーツの指導者として選手たちに伝えたいことをひと言で言えば心を教えることです。ひたむきにディフェンスをする、ひたむきにボールを追う、ひたむきに頑張る、正々堂々と戦う。私はそれが高校生としての戦う姿勢だと思っています。

「心・技・体」という言葉がありますよね。「心・技・体」か「体・心・技」か、それとも「技・体・心」か、どの順番でチームづくりを行うのがよいのか。私もいろいろと悩んできました。

結果的に私は「心」を優先したチームづくりをしてきました。つまり、「高校生らしさだけは日本一になろう」というテーマで指導してよい結果に繋がったことです。

バスケットで技術面の遅れを取り戻すのは容易ではありません。だけど、文武両道、勉強もスポーツも全力で頑張っていこうという姿勢を身につけさせることはいますぐにでもできます。そこに重点を置いて日本一になるための練習をスタートしました。

〈国分〉
順番としてはやはり「心・技・体」なのですね。

〈佐藤〉
私はそう思います。まずやる気がなかったら、力は十二分に発揮できません。

もちろん気持ちだけでは勝てませんから、技術や体づくりを高める努力は怠ってはいけませんが、技術面では誰もができることがしっかりできていれば、それだけで絶対に結果が出せます。その技術を発揮させるために心の持ち方が大事になってくるのです。

自信がないと我慢もできない

〈国分〉
勝ち続けるチームをつくる上でどういうことを心掛けていらっしゃいますか。

〈佐藤〉
実際の試合では思うように事が運ばないことが多いのですが、そういう時、私は「俺たちは雑草軍団なんだ。勝てる」と東北人の気質を言います。

東北の冬は長いでしょう? 雪が解けて芽が出てきた時、さあ、東北の春はここから始まるのだ。ここからがおまえたちの出番だ。いまは我慢、我慢、我慢だぞ、と。

だけど、我慢だけでは片づかないものがあります。私は選手が自分自身やチームに自信を持てない限り、決して我慢は長続きしないと思っています。だから指導者は選手たちのモチベーションを常に高め続けなくてはいけない。

2つ目は常勝チームらしい雰囲気と品格づくりです。試合が終わった時、「ああ、こういうチームの雰囲気だったからこそ勝てた」と感じることがあります。

そして3つ目が、話法と指導の工夫です。言葉のイメージを選手たちにサッと掴んでもらえるだけの表現の仕方が指導者にはとても大事です。

〈国分〉
私は勝ち続ける指導者の条件は大きく3つあると考えているんです。

1つ目は一流の人、師匠と思える人たちの話を聞くこと。2つ目はよい本を読んで「なるほど」と思ったことを自分で真似ること。3つ目は時代の変化を常に意識しながら、自分を改造し成長させていくことです。

指導者は常に決断を求められているわけですから、それを学ぶのには命を懸けた人たちの本を読むのが1番だと思います。


(本記事は月刊『致知』2016年11月号 特集「闘魂」から一部抜粋・編集したものです)


王貞治氏、稲盛和夫氏、井村雅代氏、鍵山秀三郎氏、松岡修造氏など、各界トップリーダーもご愛読! あなたの人生、仕事、経営を発展に導く珠玉の教えや体験談が満載、月刊『致知』のご購読・詳細はこちら各界リーダーからの推薦コメントはこちら


致知出版社編集部ブログ

◇国分秀男(こくぶん・ひでお)
昭和19年福島県生まれ。慶應義塾大学卒業後、京浜女子商業高等学校(現・白鵬女子高校)を経て、48年宮城県の古川商業高等学校(現・古川学園高校)に奉職。商業科で教鞭を執る傍ら、女子バレーボール部を指導。県大会以上の優勝150回。全国大会出場77回、うち全国制覇12回。平成11年には史上5人目の3冠(春、夏、国体)の監督となる。8年から11年までには春、夏ともに4年連続決勝進出という高校バレー史上初の快挙を成し遂げる。16年から東北福祉大学特任教授。著書に『夢を見て 夢を追いかけ 夢を食う』(日本文化出版)がある。

◇佐藤久夫(さとう・ひさお)
昭和24年宮城県生まれ。日本体育大学卒業後、教員として宮城県内公立高校で女子バスケットボール部を11年指導。泉松陵高校で男子を3年指導した後、母校・仙台高校へ赴任。16年間の在任中は常に全国トップクラスの成績を維持し、ウインターカップ優勝2回など数々の好成績を収める。退職後、日本バスケットボール協会強化本部選任コーチ。ヤングメン日本代表コーチ、ユニバーシアードヘッドコーチ、日本代表コーチを歴任。現在、明成高校男子バスケットボール部ヘッドコーチ、仙台大学体育学部准教授。著書に『普通の子たちが日本一になった』(日本文化出版)がある。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる