永世七冠、最強棋士・羽生善治の勝負哲学

将棋界初の七代タイトル全制覇を成し遂げ、国民栄誉賞を受賞した羽生善治さん。熾烈な勝負の世界を勝ち抜いてきた最強棋士・羽生さんは、どのような勝負哲学を持ってここまで歩んできたのでしょうか。米長邦雄さんに学んだことを交え語っていただきました。

■自分の実力を知っておく

(羽生)

結果が出ないとか、負けが込んでいるとかで苦しむことはよくあります。そういう時は、もうその状況を受け入れるしかないっていうことは思いますね。時間が解決してくれるケースもあるので、その時が来るまで待つというところでしょうか。

 それから、自分の実力はこれくらいということをよくわきまえておくことも大事だと思います。いまはまだ実力が十分備わっていないんだから、結果が出なくても当然だと自覚していれば、大変な時期でもそんなに深刻にならずに乗り越えていけるかもしれませんね。

 その時の自分の状態が分かるリトマス試験紙というのを私は持っていましてね。よく人から「頑張ってください」って言われることがあるでしょう。

 その時に「ありがとうございます」って素直な気持ちで言える時って大体いい状態なんです。いや、そんなこと言ったってもう十分頑張ってるよって思う時はあまりよくない。

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■米長邦雄先生から学んだこと

棋士としてのあり方という点では、いまでも印象に残っているのが、亡くなった米長邦雄先生です。

私が初めて名人戦に臨んだ時の相手が、前年に49歳で名人位に就かれた米長先生でしてね。あの時の先生は、対局中に一回も膝を崩されなかったり、並々ならぬ思いを込めて臨んでおられました。

勝負は、私が3連勝して名人位に王手をかけたんですが、そこから先生が盛り返されて2連敗を喫してしまいました。後で知ったんですけど、米長先生は私に3連敗した後、負けたら引退するつもりで第4局に臨まれていたらしいんです。 

ところが先生は、対局の合間の休憩時間などには、立ち会いの内藤國雄先生と朗らかに談笑をなさったりして、そういう覚悟は微塵も感じさせなかった。並々ならぬ決意を持って勝負に臨みつつも、そういう逆の振る舞いをあえてなさっていた姿が、非常に印象に残っています。

 米長先生の世代の方とは、タイトル戦を戦う機会が少なかったので、とても貴重な勉強をさせていただきました。

 (本記事は『致知』2017年10月号の記事の一部を抜粋したものです)

 羽生善治(はぶ・よしはる)

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昭和45年埼玉県生まれ。6歳で将棋を始める。小学6年生で二上達也九段に師事し、奨励会(プロ棋士養成機関)に入会。中学3年生で四段となり、史上3人目の中学生プロ棋士に。平成8年7大タイトルを独占し、史上初の7冠に。現在、7タイトル戦のうち6つで永世称号の資格を保持。通算タイトル獲得数単独1位。著書に『決断力』(角川書店)など多数。

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