柳川範之×松尾豊 人工知能の第一人者が語り合う、日本復活の方策

いまものすごい勢いで進化を遂げている人工知能は、私たちの生き方や社会をどのように変えていくのでしょうか。経済学の分野から人工知能にアプローチしてきた柳川範之さんと、日本を代表する人工知能研究者である松尾豊さんに人工知能をどう向き合い、活用していくか、語り合っていただきました。

世界に遅れを取る日本の人工知能

(松尾) 

とはいえ、日本の人工知能の技術は世界に大きく後れを取っていて、もはや勝負にならないくらいの差になっています。アメリカ、カナダ、中国、フランス、イギリス、シンガポールの次に日本がくるくらい、いや、韓国なども日本より上かもしれません。

(柳川) 

日本がそれほどの後れを取っている理由は何なのですか。

(松尾)

例えば、グーグルの年間研究開発費は約1兆4千億円で、そのかなりの部分が人工知能に使われています。一方、日本政府が人工知能研究に出している予算は30億から40億円なんですよ。研究費から比較にならないんです。

さらに、向こうの自動運転関係の技術者の年収は約30万ドル(日本円で約3千万円)くらいですが、日本だと5百万円ほど。報酬面でも、日本は優秀な人材を惹きつける力が全然ありません。

結局、人工知能などの情報技術の世界では、技術のベースをつくって、その収益を再投資していくモデルを先につくった人が勝つんですよ。

例えば、ディープラーニングで牛丼をつくって、下がったコスト分の利益を技術に再投資することで、今度はパスタやカレーができるようになる……、というように、とにかく再投資のサイクルが非常に速いんです。ここにグーグルやフェイスブック、アマゾンなどの企業が短期間で急成長していった理由もあるんですね。

柳川範之さん

(柳川) 

おっしゃるとおりだと思います。人工知能はデータを入れて学習させていきますから、データを入れれば入れるほど、時間を経れば経るほど賢くなっていくんですね。

だから、日本がいきなりどーんとお金をつぎ込んでも、残念ながら、あっという間に人工知能が賢くなれるわけではないと。

このことは、早くに分かっていたわけで、日本はもっと真剣に人工知能の研究に取り組んでこなければなりませんでした。ここ4~5年で、簡単には埋められないほどの差が世界とついてしまったというのは事実だと思いますね。

若手が活躍できる社会へ

松尾豊さん

(松尾) 

GDPも先進国の中で日本だけが伸び悩んでいますが、その主な原因も、IT産業のイノベーションの果実をものにできていないところにあると思うんです。

それで、私はIT産業が日本で成長していかない大きな理由の一つは「年功序列」だと考えていまして、なぜかというと、IT技術者は圧倒的に20代が強いんですよ。30代が円熟、40代になると、もう引退という感じです。

グーグル創業者のセルゲイ・ブリンやラリー・ペイジ、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグも、技術者としてバリバリプログラミングをしていたのは20代で、いまは経営者としての役割のほうが強くなっています。

(柳川) 

20代が最も実力を発揮する分野なんですね。

(松尾) 

にもかかわらず、日本の年功序列ではどうしても20代が重視されませんから、そこが欧米企業との大きな差になってくる。

僕は、これからは職種ごとのピーク年齢を考えて仕事をしたほうがいいんじゃないかと思っていましてね。例えば、ピーク年齢が20代のIT技術者と、長い熟練が必要なピーク年齢が後ろのものづくりの職人とがうまく協力、融合していけるような働き方です。

それは、資産家の資産を若いトレーダーが何倍にも増やせば、高い成功報酬をもらえる金融の世界の働き方とすごく近い気がしています。ものづくりの資産・蓄積を、若者が人工知能の技術で何倍にも高めることができれば、その分のリターンをウィン‐ウィンで若者に戻してあげると。

そうなれば、もっとIT産業に若者が入ってくるようになりますし、技術力も高まっていくだろうと思うんですね。

☆こちらの記事も好評です!⇒「成功する人は、脳に何をインプットしているのか?」

(本記事は『致知』2017年8月号の記事より一部抜粋したものです)

◇柳川範之(やながわ・のりゆき)

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昭和38年埼玉県生まれ。58年大学入学資格検定試験合格。63年慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。平成3年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、5年同大学院博士課程修了。慶應義塾大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学科研究科准教授などを経て、23年より現職。『東大柳川ゼミで経済と人生を学ぶ』(日経ビジネス人文庫)『東大教授が教える独学勉強法』(草思社)『40歳からの会社に頼らない働き方』(ちくま新書)など著書多数。

◇松尾豊(まつお・ゆたか)

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昭和50年香川県生まれ。平成9年東京大学工学部電子情報工学科卒業。14年同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より産業技術総合研究所研究員。17年スタンフォード大学客員研究員。19年より現職。著書に『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA)。

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