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鈴木秀子氏(文学博士)

激痛を堪え忍び、
最後の一息まで生き抜かれた

鈴木秀子氏(文学博士

渡部先生の人生の締めくくりは、実に見事でした。
人は生きたように死ぬといいますけれど、激痛の中でも自分を見失うことなく、最後の一息までしっかり生き抜かれました。

一度、あまりの激しい痛みにお医者様がモルヒネを使ったときに、頭が朦朧とする体験をなさった先生は、頭がぼんやりするより激痛を堪え忍んだ方がいいという選択をなさり、最後までそれを貫かれました。

私は最後の先生のご様子をずっと見守らせていただきましたが、先生をサポートなさるご家族の皆様も実に立派でした。先生のご意思を尊重し、先生の見るに堪えがたいほどの苦しみをも共に耐え抜かれました。皆様が一致協力して、先生を支え続けました。

先生は最後まで生き抜く意欲を持ち続けられ、足が萎えないようにご次男様ご夫妻に支えられながらも、ご自分の足で毎日歩く訓練を続けていらっしゃいました。

そして、毎日毎日おっしゃることは、どの人に対しても「ありがとう」という言葉のみでした。

「ありがとう」というときには神様への深い感謝がこもっていました。私たちはその「ありがとう」という言葉を聞くたびに、命あることのありがたさ、こうした家族のあることのありがたさ、沢山の人とつながっていることのありがたさをしみじみ感じたものです。

「ひとりの人の尊い行為は、多くの人々に限りない功徳をおよぼす」という言葉がありますが、渡部先生は、生涯を通して、とくに、最後の日々の苦しみを多くの人のために捧げることによって、どれだけの恵みをこの世にもたらしたか計り知れません。

先生が常に力を注がれた『致知』を通して、先生に深い感謝を述べることができるのは嬉しいことでございます。


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