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堺屋太一氏

知的で良心的な愛国者

堺屋太一氏(作家

世に知的な人は少なくない。豊かな知識と鋭い洞察力を持ち、未来を指し示せる人もいる。ベンチャービジネスを開き、新技術を見付け、次世代の育成に当たる人々は多い。

良心的な人も少なくない。世の毀誉褒貶を顧みず、常に信じるところを説いて止まぬ人士も珍しくはない。

また、今の世を憂い国を愛し、日本と日本人と日本文化を誇りとする愛国者も少なくはない。

だが、この三つが三つながらに鼎立している「知的な巨人」は、必ずしも多くはない。知的な人でも世の風潮に媚びてありもしない日本批判に加わる者もいれば、戦後の「東京裁判史観」から逃れ得ない者もいる。中でも多いのは相も変わらぬマスコミ論調と官僚主導の事なかれ主義に溺れて「無難な論調」に終始する人々である。 そうした方向からは、真に「良心的な」論調は生まれない。分かったような、誰からも非難されないような話の繰り返しになってしまうからだ。

また、愛国的な論者も決して少なくない。戦後七十年。高度成長を成し遂げてからでも四十年。日本の良さ、日本国民の素晴らしさを語る者も珍しくなくなった。

だが、その一方で「日本的良さ」を強調する余り、この国の歴史と文化に与えた外国と外国人との関わりを軽視する人もいる。

知的で良心的で愛国的であるためには、すべてを公正に見る知性と知識、流行にもマスコミ論調にも媚びない骨太さ、そして内外の知識を深く知る勉学が必要である。

渡部昇一先生は、この三つを兼ね備えた碩学、勇気ある知的巨人だった。ヨガの達人でもあったので、「あと十年は達者でご活躍いただける」と思っていたが、残念である。


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