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村上和雄氏(筑波大学名誉教授)

日本と世界にとって大きな損失

村上和雄氏(筑波大学名誉教授

渡部昇一氏は上智大学において、教育と研究に長年にわたり従事されました。そして、大変優れた業績を上げ、瑞宝中綬章を受章されておられます。渡部氏の専門は英語学ですが、言論活動は、その専門分野を遥かに超え、歴史、政治、成功哲学、人物論など非常に広範囲のものでした。

何故そのような幅広い活動ができるのかと問われますと「私は好奇心が旺盛で、つい他の分野にも興味を持ってしまうのだ」と答えておられました。

渡部氏の大きな活動の特徴は、単に学術分野にとどまることなく、一般人にも理解できる本を数百冊出版されていることです。多くの大学人が狭い専門分野に閉じこもりがちなのに比べ、全く異色の存在でした。

以前、書庫を拝見させてもらったことがありますが、十五万冊にも及ぶ日本語、英語、中国語などの書物が天井まで収蔵されており、その質と量に圧倒されました。ここに渡部氏の多彩な活動の原点を見る思いでした。

渡部氏は若いころ、ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学に留学した経験を持っておられます。当時、外国に行くのが大変難しい時代でしたが、この外国での経験が、日本と日本人の価値を客観的に見る言論活動に役立っていると思います。

今後、世界に必要なことは、単に科学・技術の力だけではなく、大自然の恵みに感謝し、凜として生きることだと思います。そのためには、日本民族は誇りと高い夢を持って歩んでほしいと切望しておられたように思います。

私はダライ・ラマ十四世と何度も対談しましたが、法王は二十一世紀は日本人の出番が来ると確信しておられました。今後は、日本人を含む東洋人の活躍する時代が来るように思います。このような時期に、渡部氏を失ったことは日本と世界にとって大きな損失であります。


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