2008年1月号:特集「健体康心」
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特集 健体康心
ドイツの哲学者カントは、馬の蹄鉄屋の子に生まれた。生まれつきのくる病であった。背中に瘤があり、乳と乳の間は僅か二 半、脈拍は絶えず百二、三十、喘息で、いつも苦しげに喘いでいた。
ある時、町に巡回医師がやってきた。少しでも苦しみを和らげられたら、と父はカントを連れて診せに行った。診てもらってもどうにもならないことは、カント自身も分かっていた。
そんなカントの顔を見ながら、医師は言った。その言葉がカントを大哲学者にするきっかけとなったのである。
「気の毒だな、あなたは。しかし、気の毒だと思うのは、体を見ただけのことだよ。考えてごらん。体はなるほど気の毒だ。それは見れば分かる。だがあなたは、心はどうでもないだろう。心までもせむしで息が苦しいなら別だが、あなたの心はどうでもないだろう。
苦しい辛いと言ったところで、この苦しい辛いが治るものじゃない。あなたが苦しい辛いと言えば、おっかさんだっておとっつぁんだってやはり苦しい、辛いわね。言っても言わなくても、何にもならない。言えば言うほど、みんなが余計苦しくなるだろ。苦しい辛いと言うその口で、心の丈夫なことを喜びと感謝に考えればいい。体はともかく、丈夫な心のお陰であなたは死なずに生きているじゃないか。死なずに生きているのは丈夫な心のお陰なんだから、それを喜びと感謝に変えていったらどうだね。そうしてごらん。私の言ったことが分かったろ。それが分からなければ、あなたの不幸だ。
これだけがあなたを診察した私の、あなたに与える診断の言葉だ。分かったかい。薬は要りません。お帰り」
カントは医師に言われた言葉を考えた。
「心は患っていない、それを喜びと感謝に変えろ、とあの医師は言ったが、俺はいままで、喜んだことも感謝したことも一遍もない。それを言えというんだから、言ってみよう。そして、心と体とどっちが本当の自分なのかを考えてみよう。それが分かっただけでも、世の中のために少しはいいことになりはしないか」
大哲学者の誕生秘話である(宇野千代著『天風先生坐談』より)。
続きは本誌で…。









