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2007年7月号:特集「機を活かす」

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特集 機を活かす

 元禄歌舞伎を隆盛に導いた初代澤村宗十郎にこういう逸話がある。宗十郎の引退興行の時のこと。名優最後の花道というので、座員一同、随分緊張したものらしい。
「申し上げます。申し上げます。申し……」
 芝居の一場面で役者の一人が科白をここまで言って、しどろもどろになってしまった。あ、忘れたな、と気づいた宗十郎は咄嗟に、
「よほどの密事と心得たり。近う、近う」
 と手招きした。座員はにじり寄って小声で、
「すみません。忘れました」
 宗十郎は自分の耳に手をやって聞き届け、次は口元に手を添えて、「もうここらでよかろう。ではご免、と言って下がれ」
 座員は声を張って「ではご免」と引き下がり、ことなきを得た。
 機を転じて活かした宗十郎の咄嗟の対応に感嘆する。長年の修練と人間的度量のなせる業だろう。

 平岩外四氏(東京電力元社長・会長)は若い頃、当時の社長木川田一隆氏の秘書を務めた。その頃、木川田社長が自分に顔を向けた瞬間、社長が何を言いたいか、何をして欲しいかが分かったという。常に社長の思いと心を一つにし、社長と共有の時間を生きているからこそ、そういう不思議を可能にすることができたのだろう。

「幾を知るはそれ神か」と『易経』は言う。「幾」は「機」である。ものごとのきざしを見ていち早く事件が起こるのを察知するのは、神というべきだろうか、というのである。また、「幾を見て作ち、日を終うるを俟たず」──機を知ったらすぐに実行せよ、とも教える。

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