“特殊部隊”創設者が語る強い人材、組織のつくり方

自衛隊初となる、特殊部隊の創設に携わった元自衛官で特殊戦指導者の伊藤祐靖さん。生死に直結する過酷な任務を遂行する特殊隊員を数多く育成するともに、自らにも過酷な訓練を課してきた伊藤さんが語る、強い人材、組織をつくる要諦とは――

目的が一致した集団は強い

伊藤さんが実際に特殊部隊を創設する時に特に心掛けたのは、組織としての目的、理屈を一貫させることだったといいます。

「特殊部隊は、試合で絶対に勝つことを目的にしたチームなので、どんなことを聞かれても嘘のない、一つの理屈が答えられる組織にしようと思いました。

 具体的には、実際に起こった(北朝鮮の拉致工作船による)能登半島沖不審船事件をモデルにして作戦計画を立てました。もう一回同じ事件が起これば、必ず日本人を奪還できる組織をつくる。そのためには人員や予算、訓練はこれくらい必要だというように、常に具体的な作戦計画に戻るように進めていったんです。これなら変な嘘や理屈は必要ありません。」

そして、命を賭して任務にあたる特殊部隊員を教育するために、伊藤さんは「何のために」という意識づけを大事にしたそうです。

「パラシュート降下やレンジャー行動、スキューバ潜水など、高度な訓練をいくつも行っていくのですが、隊員を教育する上で気をつけたのは、『何のためにするのか』という意識づけです。

 例えば、初めて訓練に参加する隊員に『朝ごはんは食べてきたか? 何で食べたんだ?』って聞くんです。それで『お腹がすいたので食べました』と答えると、『違う。おまえはいまから特殊部隊の隊員になるための訓練を受ける。そのために必要な栄養を得るために食べたんだ。腹が減ったから食べる、食べないという問題じゃない』と。」

組織としての目的を一貫させる、隊員にどんな些細なことでも目的意識を持たせることなどを通じて、伊藤さんは創設から僅か7年後には、他国にも劣らない特殊部隊をつくり上げます。

フィリピンで出逢ったラレインに学んだ本物の条件

特殊部隊創設に携わったあと、自衛官を退官した伊藤さんは、「平和ボケ」しないため、さらに戦闘技術を磨くため、民族や宗教紛争が頻発するフィリピンのミンダナオ島に向かいます。そこで出逢った反政府勢力と強い関係を持ったラレイン(仮名)さんとトレーニングを重ねていくのですが、伊藤さんはラレインさんに次のように指摘されるのです。

「ラレインはおそらく反政府勢力と関わりを強く持っていたのではないかと思います。水中格闘の技術をはじめ、刃物でも銃でも何でも使えました。彼女とのトレーニングを通じ、戦うことの認識を根本から改めさせられましたね。

 例えば、私が『寝技の訓練をバドミントンコートでする』と言ったら、『日本人はバドミントンコートで戦争するの?』と。また、ある訓練で胴着を着たら、『なぜわざわざこんな技をかけやすい服を着るの? Tシャツなら破けて技がかからないじゃない? あなたは真剣、本気じゃないのよ』と。」

それまで特殊部隊で過酷な訓練を重ねてきたはずの伊藤さんは、ラレインさんの言葉から、守られた環境で自分は訓練効果も得たい、怪我もしたくないと、何でも同時に手に入れようとしていたことに気づかされるのです。そして、与えられた任務を本当に完遂できる強い人材、組織に共通する条件を学んでいきます。

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(本記事は『致知』2018年4月号に掲載された伊藤祐靖さんのインタビューを一部、抜粋したものです。全文は本誌をご覧ください)

◇伊藤祐靖(いとう・すけやす)

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昭和39年東京都生まれ。日本体育大学卒業後、海上自衛隊に入隊。「みょうこう」航海長在任中の平成11年3月、能登半島沖不審船事件を体験。これを機に自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。19年、2等海佐で退官。現在に至る。著書に『国のために死ねるか』(文藝春秋)など。

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